鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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ヨンは50点で,そのうち縦長シリア型粘土板は20点(但し1点はシロ・ヒッタイト関係),横長シロ・ヒッタイト型粘土板は27点である。また,ほぼ正方形の小箱のような粘土板文書2点(テキスト33,34)は,明らかに前出2種の粘土板文書とは別の形状のグループを作る。文書の内容は主として売買や貸借契約書で,模形文字は横書きで上から下に書き進み,表の下の側面にも続けて書き,そのまま裏へとすすむ。つまり裏を書く時には表の上下は逆さまになっている。われわれが契約書に甲,乙として記名,捺印するのと同様に,契約の当事者の印章,そして契約に立ち会った証人の名前が末尾に列挙されたり,印章も捺されたりした。場合によっては数種類の印章が捺され,同一印章が何度も捺される場合もある。今回の資料の中ではl枚の粘土板に最多8種類の印章の捺された例(テキスト28)カfある。エマルの印章様々な印章が同時に存在していることは以前から知られ,報告例はまだわずかである(注5)。今回の50点の粘土板文書に捺された印章の個体数は114点あった(注6)。印章の形状にはメソポタミア伝統の円筒印章83点,ヒッタイト古王国時代の伝統を引くスタンプ印章7点,そして指輪型印章24点が挙げられる。印章の形状別にその様式を見ていくことにする。スタンプ印章としては,厚い粘土板文書の中央に深くくぼんで捺されたヒッタイトの円形スタンプ印章(注7)があるが,エマルの場合はだいたい平坦な印影である。エマルのスタンプ印章7点すべてはシロ・ヒッタイト様式であり,必ず文字銘入りである。円形スタンプ印章6点のうち3点はヒッタイト象形文字のみ,2点はヒッタイト象形文字とヒッタイトの雷神の図〔図l〕があり,「王子イニ・テシュプJ銘の印章はヒッタイト風に中央に捺されている(これのみ縦長のシリア型。テキスト13)。円形スタンプ印章のl点はヒッタイトの雷神の図に模形文字が入っており「ニヌルタ神の僕,ティリィ・シャルマ」(テキスト47)とある。もう1例は象形文字入りの楕円形の印影でエジプト起源のスカラベ(甲虫)形印章と思われる。これらはすべて横長型粘土板6点に捺されている。指輪型印章にはいろいろなタイプがある(注8)が,エマルの指輪型印章24点は筒状の指輪を転がして捺し,a)印影が細いほぼ一定幅のタイプ〔図3〕,b)それで両-523-

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