鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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端が狭くなる帯状(柳葉状)のタイプ,c)より高さのある長楕円形のタイプがある〔図l〕。b)はシロ・ヒッタイト時代の指輪型印章の実物例(注9)に符号し,おそらくそれぞれの印影に対応する形の金属製の指輪であったと思われる。指輪形印章の図柄ではa)とb)は文字が一列に並び,正面向きの(双頭の)鷲を合間に配しつつ,ヒッタイトの象形文字銘文の指輪19点と模形文字銘文の指輪5点がある。印面が小さいためか同じ粘土板上で何度も転がしている場合もある。c)は両脇に中心を向いたスフインクスを配し,その聞に神や動物,文字が配される。いずれもシロ・ヒッタイト様式で,捺された文書は横長型粘土板の12点である。円筒印章には大きく分けるとシロ・ヒッタイト様式,シロ・ミタンニ様式,シリア様式,その他がある。・シロ・ヒッタイト様式の円筒印章(30点)ヒッタイト美術はもともとメソポタミア,エジプト,シリア美術の影響を受けて成立している。ヒッタイト新王国時代にはミタンニ美術の影響も受けているが,比較的ヒッタイトの要素が強いグループである。このグループの印章には所有者を示すための銘文がほとんどの場合入っている。ヒッタイト象形文字が主体で,加えて模形文字が併記されていたり,模形文字だけの場合もある。モチーフとしては小さい角のつく尖った帽子をかぶり,短いキルトをはき,梶棒や雷鳴のフォークや斧,手綱などを手に持った嵐や雷の神がもっとも多く登場し,つぎにこれと向き合う形で太陽女神が配されることも多い。太陽女神は頭上に有翼円盤を戴いている例もある。また,それぞれの神に付き従う動物として,雷神は牡牛,太陽女神はライオンに乗って表現されることも多い。肩から翼のはえた神も見受けられ,根棒を持っていたりする。嵐の神は西アジアの乾期から雨期に移行する時期に砂嵐や雷雨が発生し,シュメールの時代のイシュクル,アッカド時代にはアダド,フルリ系ではテシュプ,シリアではハダド,ウガリットではパールと名前は変わってもその信仰は存続し,エマルではジェシェブと呼ばれていたらしい。雨が降れば作物が実ることから,単に脅威の神ではなく待ち望まれる神でもあったのである。また,太陽女神はヒッタイトではアリンナである。有翼の神もおり,三日月の角冠をかぶった神はフルリ系の月神クシュクといわれる。弓を背に携えた人物もよく登場するが,手に鳥を乗せていることが多い。鷹匠の可524

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