鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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ダガンが2回使用し,次のピルス・ダガン王の時,印章Bを書記アピ・カピとダガリが使用し,書記ダガリはその次のエリ王にも仕えて印章Cを使い,エリ王は先々代の印章Aを書記イシュ・ダガンに3回使用させている。またこのドリルを多用した様式で,貢納動物など抱えたり裸体で巻き毛の英雄や牛男,椅子に座る神など古パピロニア時代のモチーフを継承しているグループ(図6左側面〕も,紀元前18世紀のアララフ四層にも遡りうるがIV層にも見受けられ,シロ・ミタンニ様式に加えておく。・シリア様式の円筒印章(18点)もともとシリア様式とはメソポタミアの古パピロニア様式にエジプト,アナトリア,パレスチナ方面などまさにシリアを交差点とする諸美術様式の混合を特徴とする。その中で,多少の傾向別に分類してみると,以下のようになる。[古パピロニア風シリア様式]古パピロニア時代の印章の伝統が残存しているのか,あるいは古パピロニア時代の印章に変更を加えた場合もあろう。エマルの印章のなかでは楯と鎌剣を持つ戦いの神ニヌルタ神の印章〔図6〕がある。ニヌルタ神はエマルの主神であったと考えられており,「ニヌルタ神と長老達」の不動産売買などに使う印章であったらしく,市共同体の公的印章と考えられている。ニヌルタ神の印章はl点のみで,これを3点の粘土板文書に使用している。王家と行政の分立がうかがわれるが,王朝印章とニヌルタ神の印章の両方が捺されたテキスト7は重要書類であったのだろう。このような市の「神jの印章はユーフラテス中流域で見受けられる特色であるらしい(注11)。これ以外に,比較的彫りの浅い古パピロニア風の印章グループがある。[アナトリア風シリア様式]つば広帽子をかぶってキルトをつけた雷神や雷神に伴う座り込んだ小さな牡牛などが登場する〔図6上側面〕が,シロ・ヒッタイト様式ほどヒッタイト風ではない。しかし,形状で別にした正方形グループの一つにあり,ニヌルタ神の印章のあるテキスト2にもあり,注目すべき印章であるかもしれない。[パレスチナ風シリア様式]アララフ,エマルと並んでヒッタイト王の管轄下にあった地中海沿岸の都市ウガリト地域では,ごく粗雑な印章やドリルで、単純に彫った印章などがあった。この地域にエマルの印章にもある小人物連続文が見受けられる。多少丁寧に人物を描いたものから,顔も判別不能な雑な人物を繰り返し連ねたものもある。エマルのテキスト42ではキルトを身につけた1周7人の連続文様が縦長粘土板文書に526

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