証され,現在最も確実な破笠の津軽家出仕中の基準作品となっている(注4)。しかしながら,この「料紙箱」,「硯箱」については,伝来への関心が先行したためか,作品そのものに対する詳細な検討はほとんど加えられていない。そこで,まずこの「料紙箱」,「硯箱」の意匠や技法の特質について考察を加えたい。まず「柏木菟意匠料紙箱jの蓋上には,柏にとまるー羽の木菟があらわされている〔図2〕。木菟はやきもので,粘土を型に押しつけて作る型作りの素地を低火度で焼成した楽焼の技法が用いられている。また眼には透明のガラスが翫め込まれている。柏の幹は金高蒔絵で立体的にあらわされ,葉は金高蒔絵,螺銅,鉛板の3種の材料が使われる。柏に絡みつく紅葉した蔦は,朱漆,青漆,黄漆の色漆による漆絵で,蔓は漆筆の筆使いの跡、も生々しいほどの付描で表され,蒔絵職人の仕事というよりも,むしろ絵師の筆使いを感じさせる。「柏に木菟」の意匠の源泉を辿ってみると,古くは「柏木菟螺銅鞍J(永青文庫蔵・鎌倉時代)や,「柏木菟腰万J(春日大社蔵・室町時代)など,日本の工芸品では武器や武具にその遺例がみられる。また,最近の京焼色絵陶器研究の成果により,元禄14年(1701)の墨書銘をもっ古清水の「色絵木菟形掛花入Jが発見され,破笠作品にほど近い時代に制作された,木菟意匠の陶器の作例として注目される(注5)。このように「料紙箱Jは,日本の伝統的な意匠に基づいたものと考えられるが,さらによく観察してみると,別の興味深い仕掛けが隠されていることに気付く。木菟や棄の類は,中国古代より青銅器や陶器にしばしば造形化され,死者を守る,また魔除けなどの意味を持ち(注6),さらに,柏は「ハク」,また「ヒャク」とも音読され,数字の「百Jil音通で、あることから,中国では不老長生,長寿を象徴する吉祥モチーフとされている(注7)。つまり「料紙箱」の意匠は,一見すると日本の伝統的意匠と理解されるが,漢の知識に明るい者であれば,そこに隠された中国の吉祥性を読みとることのできる仕掛けとなっており,まさに「和Jと「漢Jのダブルイメージにより成り立っている。さらに,「料紙箱」の形についても注目してみたい。「初音蒔絵料紙箱」(徳川美術館)のような日本の伝統的な料紙箱には,「料紙箱jのような台脚はなく,底は平面に仕上げられている。それに対し,李朝時代の「牡丹唐草螺銅箱」(静嘉堂文庫美術館蔵)や「花鳥文堆朱沈箱」(徳川美術館・明時代)には,「料紙箱jと同様の台脚がついている。したがって「料紙箱」は,料紙箱の形そのものにも,中国や朝鮮などの異国性が意識535-
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