鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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20〕は,『方氏墨譜』の「三雅図J〔図21〕からの引用と考えられる。合する。破笠筆「漁夫図j〔図14〕は,『八種画譜Jの「古今画譜」の漁夫図〔図15〕にその典拠が求められる。「古今画譜」の図の右半分を占める印象的な岩山は省略されるが,蓑笠をつけて船を漕ぐ人物や手前の岩芦などは原図に忠実に引用されている。信寿の旅館と題された漢詩に添えられるのは,破笠の弟子と思われる琴園の「山水図」〔図16〕である。この図も『八種画譜Jの「六言唐詩画譜」に載る高士図〔図17〕の中心モチーフである人物,羊,松,川などを取り除き,遠山と麓の木立に固まれた茅屋という遠景のみをクローズアップにして描いたものと判明する。宗理筆「月に墨蘭図J〔図18〕も,『人種画譜』の「梅竹蘭菊譜」の墨蘭図〔図19〕からの引用であることが一目瞭然であり,相違点は宗理画に漢詩ではなく月が添えられていることくらいである。破笠の描いた青銅器の爵と馬上盃に,盃という和漢の酒器が取り合わされた図〔図以上,中国製画譜類との借用関係を明らかに指摘できる図を紹介してきたが,『独楽徒然集』にはこの他にも,青銅器風の古器物,文房具,唐人物,象など中国的イメージを付加した図様が散見される。実際に借用関係の明らかとなった画譜のうち,『方氏墨譜』は前述したように津軽家の漢籍目録にみられる。また,『八種画譜Jの和刻本(注19)も同じ目録の「芸術家」の項に記録されており〔図22〕,『独楽徒然集Jの挿絵もまた,津軽家所蔵の中国製画譜,或いはその和刻本を利用した成果の一端と捉えることができる。同目録には,『清河書画肪J,『真蹟日録J,『清河書画表J,『南陽名画表J,『法書名画見聞表J,『無声詩史J,『江村錯夏録』,『侃文斎書画譜』,『国朝画徴録J,『鉄網珊瑚L『鉄網珊瑚画品J,『坐隠訂譜』など,明末から清朝にかけて出版された中国製の画譜,画論類の名前を数多く見いだすことができ,大変興味深い。これら津軽家旧蔵の漢籍の特質については,他の大名家や公家などの蔵書と比較検討をおこなったうえで,今後明らかにしていく予定である。また『独楽徒然集』の挿絵には,中国画譜を借用した図のほかに,当時大阪画壇を中心に盛んに出版された絵手本類との共通性や絵入俳請書との関係も見いだせるのであるが,この問題については別稿に譲りたい。539

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