鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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吐ハ同AU2,阿弥陀如来立像正法寺蔵〔図2〕円形の頭光を負い,正面を向き,右手を外側に向けるように垂下し,左手を胸前に挙げ,右足を少し外側に聞き気味に,左足を少し前に出して踏割蓮華座に直立して乗る如来の独尊像である。背景は何もなく,絹地は茶褐色を呈している。踏割蓮華座の下に湧雲もなく,虚空中に出現したかのようである。左手は掌を上にして第三指を内側に曲げているが,第一指と捻じてはいない。釈迦如来像とみる向きもある(愛知県指定文化財名称)が,旧収蔵箱の箱書きに「阿弥陀如来」とあるということ(注3)と,請来仏画中の「阿弥陀如来像」に,本図の印相に近い作があることによって,ひとまず逆手来迎印の阿弥陀如来像と考えたい。阿弥陀如来像は肉身を金泥とし,肉身線に朱線をヲ|いている。面貌はやや四角張り,耳は上下端が外側へ聞き,弓なりに表されている。頭部の群青色の肉警の盛り上がりは低く,赤い肉警珠は扇形に聞き,上部に金泥が掃かれている。地警は張っており,髪際は中央が下に波打つている。眉は墨線で51かれ,下に群青を添えている。上験は塁線,下験と眼筒線は朱線である。鼻筋は朱線を二本ヲ|いて表し,小鼻は墨線としている。唇は朱色とし,上下の聞を墨線で区画する。髭と顎髭は墨線でヲ|く。手の爪は鋭く尖って長く伸びている。以上のような身体的特徴は,南宋から元時代ないしは高麗時代の請来仏画にみられる形式である。本図に近い図像には,南宋時代の金蓮寺蔵阿弥陀如来像,「四明普悦筆Jの落款のある清浄華院蔵阿弥陀三尊像三幅対中の中幅,淳照10年(1180)の年紀のある知恩院蔵阿弥陀浄土図の中尊などの12〜13世紀にかけての中国画や高麗時代の東海庵蔵阿弥陀如来像,専修寺蔵阿弥陀三尊像など14世紀の朝鮮画が挙げられる。大衣は茶褐色に彩色され,「日繋ぎ丈の金蔵金文様を全面に施している。偏杉は緑色に彩色され,麻の葉繋ぎ文の金裁金文様を施している。偏杉をとおして右腕が透ける表現をしている。裾は黒青味がかった緑色に彩色され,七宝繋ぎ文の金裁金文様を施している。梧の上端の縁取りは,おのおの半裁の団花丈と七宝繋ぎ丈を上下に配した文様とし,紺色と白色を用いている。棺の紐は暗い赤色で描かれ,文様はない。衣紋線は細い墨糠で描き,金蔵金を添わせている。輪郭も同様である。暗い色調の地に金色が輝いている。本図の彩色部分には裏彩色が施されている。肉身部には黄色を厚く,大衣は茶味がかった黄色を,十君は薄く緑色をかけている。画面に変化を与え,顔料が薄く塗られているにも関わらず,立体感がある。着衣には我が国の伝統的な三種類の載金文様のみを精椴に施している。裁金文様の種類が少なく,大ぶりに表され,繁雑

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