ハ同U−thd 注(3)のように色々な形式や技法などを採り入れて独自の境地を切り開いた作品など様々(1) 『浄土蔓茶羅極楽浄土と来迎のロマンー』奈良国立博物館,昭和58年(2) 『奈良市の絵画奈良市絵画調査報告書」奈良市教育委員会,平成7年(3) 正法寺住職多田明見氏の御示教による。浄華院蔵阿弥陀三尊像などに倣っているのだろう。中尊の袈裟は,田相部が茶褐色地に花丸文を金泥で描き,周囲を具がかった薄紫色で淡く量かしている。条部も同じ色の地に唐草繋ぎ丈を金泥で描いている。袈裟の裏には金泥で雲気文が描かれる。偏杉は暗い緑色で縁は薄紫色に唐草丈を配している。祐は同じ茶褐色地に雷丈繋ぎ文を金泥で施し,棺の縁は具がかった赤みのある薄紫色に金泥で唐草文を描いている。着衣の輪郭は金泥椋によって縁どられている。両脇侍の裳は,中尊と同様の茶褐色地に唐花円文を金泥で描いている。条吊は具がかった赤みのある薄紫色地に金泥で唐草丈を描いている。これらの暗い色調は,(2)の阿弥陀如来像と同じであるが,金泥文様が全面に密には施されないので印象が異なる。具がかった赤みのある薄紫色は請来仏画に多く用いられる彩色であるが,本図のは生々しさがなく,穏やかな色調に変えられている。鎌倉時代の制作と考えられている(注5)。図像の形式に関しては,請来仏画を踏襲しながらも,三尊の配置や向き,脇侍の宝冠などに,独自の創案を付加している。色彩も請来仏画には見かけない色だが,鎌倉時代後期の一般的な仏画とは一線を画している。我が国の画家が創作した請来様仏画といえそうである。おわりに鎌倉時代後期の画家たちの請来仏画の受容に関しては,(1)のように中国の図像にうりふたつながら,描写表現は全く和様化している作品,(2)のように形式は請来仏画を忠実に踏襲しながら,表現するのに,伝統的な文様と技法を用いて折衷させた作品,な態様があることが,判明した。わずかな例ながら,鎌倉時代後期以降の仏画の主題の増加や表現の多様化を表しているようでもある。さらに,多くの資料に当たり請来仏画の受容について認識をふかめたい。『東アジアの仏たち』奈良国立博物館,平成8年
元のページ ../index.html#606