鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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冊)の出版にあたり,問題が起こらないように将軍の奥医師,桂川甫周の父桂川甫三や公家に頼み,幕府や宮廷関係に『解体新書Jをそれぞれ献上している。『解体新書』『解体新書』は,和綴の5冊からなり,本文の「巻之ーjは22丁,「巻之二jは23丁,巻之三は24了,巻之四は26丁で,序文が7丁,凡例が6丁,自序が2丁,付図は21丁,合計131丁である。袋とじであるから,262頁である。付図のうち最初のl頁が扉絵,終わりの1頁は小田野直武が肱丈を書いている。すなわち解剖図は20丁である。出版元は東武書林の須原屋市兵衛である。初版の発行部数は不明であるが,増刷がたびたび行われたとみえて,板木の磨減が見られる。杉田玄白は『解体新書』の巻之ーで「すべからく古今の解体の書を熟読すべし」として31人の名を連ねているが,翻訳にあたり,実際に使用した本の名前は凡例に記述している。それによると,クルムスの『ターヘルアナトミア』の他に,5種の解剖書から挿図をとり,6種の解剖書から諸説を使用している。挿図に関しては以下の5冊である(注19)。木東米私(トンミュス)解体書(官医桂川法眼蔵する所)火武蘭加児(プランカール)解体書(同)土加私巴児(カスパル)解体書(翼蔵する所)金故意的爾(コイテル)解体書(同,羅旬語を以て記す)水安武児(アンブル)外科書解体篇(中津侍医前野良沢蔵する所)玄白は各々の挿図の側に木,火等と記号を付加して原典を示しているが,記号のない挿絵は,クルムスが原典である。この他に,オランダの解剖学者ピドロー(Gover-tor Gode企idiBidloo)が1685年に出版したAnatomiaHumani Corporisから4枚の挿図を使用している(注20)。もう一冊の本は,『解体新書』の扉に使用されたヴァルヴェルデ(JuanValverde)が1566年に出版したVivaeImagines Partium Corpo附HumaniAereis Formis Expressaeである。儒学精神のいきわたっている江戸時代で人体を解剖するのは非人道的であるという思想をもった人が多いなかで解剖学を日本に紹介することは並大抵なことではなかっ-53-

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