鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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ずつ緑柚のかかり方が違うのである。これについてマウン・マウン氏は埠を貼りつけてから施柑し,焼いたのだと説明された。これには野焼以外にないであろうが,筆者は施粕陶を野焼きする例を知らない。にわかにこの説明を受け入れることはできないが,一方この緑柚のかかり方は説明のしょうがなく未解決のままである。大方のパゴダは煉瓦で築かれ,表面を漆喰で覆われているが,その漆喰で浮き彫り装飾を行う。その一部に施柚タイルがはめ込まれている例がある。その装飾タイルにもいく通りかあって,前々からよく知られているのはジャータカを547枚の緑柚タイルに表わし,基壇や塔身の下部縁辺に巡らせたものである。1091年建立のアーナンダ寺院では3層の基台縁辺を緑柑タイル(ここではジャータカではなく,仏陀と敵対するマーラとその戦士たちが描かれている)が縁どっており,外壁の白い漆喰とタイルの緑が美しい対比を見せている。シュエジゴン・パゴダもまた施紬タイルでよく知られているが,タイルの損傷が激しく,何らかの塗料が塗付されている。マナウンパゴダ,ダマラジャーカチェディ(1198年建立),ミンガラゼツデイパゴダ(1268年建立)等のジャータカ・タイルを考古博物館で見たが,浮き彫りがあまり厚くなく,像の動きが柔らかく繊細なものから,肉厚の浮き彫りで像の動きが単純でやや武骨なものまで,作風には幅があるようにみえた。こうしたジャータカ・タイルのほかに唐草丈のタイルや,より単純な方形や花形,火炎形のタイルをはめ込んだ、パゴダがある。12世紀の建立になるソミンジパゴダは各層の縁辺を唐草文のタイルがめぐっている。亀や象などさまざまな動物を巻き込んだダイナミックな唐草丈である。縁辺は四隅で突き出ていて獣面の大きな装飾瓦がついている。ところどころで黄変しているが緑軸一色である。スラマニ寺院(1183年建立),ティーロミンロー寺院(1218年建立),ミンガラゼツデイ寺院(13世紀建立)には緑柏と黄紬の2色を使った菱形や菊文丸形の装飾タイルが巡らされていた。スラマニ寺院ではファサードの火炎状浮き彫り装飾の上半分の彫りにあわせてタイルがはめ込んであった。スラマニ寺院,ティーロミンロー寺院のタイルは緑柚と黄紬の境目に浮き彫り状の条線を設けてあったが,ミンガラゼツデイ寺院では境を作らず単なる塗り分けとなっていた。パガンにみられる施紬タイルは,大きさといい(20センチ四方のものから30センチ四方のものまで),作風といい,かなり多様であるといえる。寺院ごとに異なるという印象さえ受けた。一つの工房で画一的に集中多量生産されたものではない。わが国では,緑粕のジャータカ・タイル以外についてはほとんど触れられることがなかったが,631

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