5.小結の貼花文がある耳付壷は(注10),インドネシアやアラビア半島で数多く発見され,日本でも出土している。この黒軸壷の産地はまだわかっていない。マルタパンの近辺ではないかと推測されるにとどまっている。ミン・オン・トウイ氏はマルタパン近郊の出身で,現在東京大学考古学研究室に留学中である。昨年の初め,氏がマルタパン周辺の開発事業にともなう発掘調査の一環として,散在する古窯社調査を行うために参加者を探していると聞き,お話を伺った。氏自身は陶磁史が専門ではないが,窯土II:があることは以前から気になっていたとのこと,この開発事業で消失する前にその調査・発掘を行いたいとのことであった。その期限は当初の予定では今年の3月末ということで,乾期にはいるのを待ってこの冬から春先に調査が予定された。陶業地として,また陶磁の集積する港として,この2つの観点からマルタパン調査が期待された。しかし,この冬になって,先にミャンマーに戻っていた氏から連絡があり,古窯祉がある地帯はピルマ族,モン族,カレン族が入りくんでいる地域であり,調査の交渉ができないということであった。交渉なしに現地にはいるのは危険である。氏にとってこの事態は予測できないものであったようである。ミヤンマーの経済事情の悪化によって開発事業が延期されたこともあり,この度の調査は延期となった。しかし,氏の記憶によるこの地の陶磁焼造の様子にははなはだ興味深いものがある。この地では近年まで窯が活動していたそうである。まったく自家用のものだけ焼く窯から商業目的の焼造を行う窯まで窯の大きさはまちまちだということである。乾期に焼き,雨期に河が増水すると船で売りにいく(来る)のだそうである。乾期には道であった場所が雨期には川となり,泳いで友達の家に行くほどの差があるとのこと,雨期の増水で窯が基部ごと破壊され流されるのを防ぐために,雨期の前に窯の上部を取り壊したという。ピルマ陶磁の中で最も注目されているのは錫紬陶であるが,錫紬に限らず,施粕タイルを軸とする低火度鉛粕,青磁,黒柚の流れにも注目される。パゴダを飾る施紬タイルはパガン,パゴーの施粕陶磁を考えるに当たって不可欠な分野であるが,こうした施柚タイルは,総本山として現在も参拝者でにぎわうヤンゴンのシュエダゴン・パゴダにも見られる。幾何学文のタイルのほかに,パゴダの裾にジャータカのパネルが637
元のページ ../index.html#647