⑫ 中国洋風画の成立と展開研究者:町田市立国際版画美術館学芸係長河野はじめに中国に於ける洋風版画と云うと,即座に思い浮かべるのが,西洋の銅版画の影響を歴然と表わしている蘇州版画を第一に挙げ,加えて同様の影響下にあった版本の挿図や,民間版画(蘇州版画以外)の存在である。第2には,洋風という用語がそぐわない感もあるが,つまり伝統的表現の中に西洋画(銅版画)的手法が取り入れられている作品群(蘇州版画に代表される木版画類)とは異なり,直接的に中国版画の分野を,新しい表現手段として西洋の銅版画の技法や表現方法を直接に受入,中国に於ける版画の分野に新たに加わった銅版画がある。今回の調査研究はこのように大きく二分類した上で,それらの作品群を精査しつつ中国に於ける洋風版画がどのようにして成立し,どのように展開していったかについて考察することにある。その手順として,現在散在状況にあるそれらの作品の全体像を可能な限り把握することから始めなければならなかった。そこで作品図版の収集を第l段階に据えることにした。そして作品の種類が限定されていることから,最初に銅版画から記すこととする。清代乾隆期の銅版画について銅版画には1 {平定伊整回部得勝図16図},2 {園明圏西洋水法図20図},3 〈平定両金川得勝図16図},4 {平定台湾得勝図16図},5 {平定安南得勝図6図},6 〈平定廓爾亜日昏得勝図8図}' 7 {平定雲貴得勝図4図}' 8 {平定湖南得勝図16 図}' 9 {避暑山荘三十六景図36図}'10 {平定準曙爾得勝図10図}' 11 {皇輿全覧図}' 12 {皇輿全覧図〉の12種がある。描かれている内容は,1,3から8'10の8図は乾隆帝の十全武功を取り上げた得勝図で2 9は洋風建造物の絵と風景画である。11,12は康照期に製作された木版地図を復刻した地図である。年代については,Iの〈平定伊埜田部得勝図〉は,原画が乾隆30年(1765)から同32年(1767)の2年間で描かれた後,フランスに送られ,パリにて制作されることになった。そして同34年(1769)に最初の4点が完成し,次いで同39年(1774)に残りの12点が完成し全16点が完結した。〈園明圏西洋水法図〉は同50,51年(1785,6)頃の作品とされ,〈避暑山荘三十六景図〉については,乾隆帝自身が撰んだ熱河の離宮の実650-
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