鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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phu 口δ⑩ 細川家をめぐる近世画壇の研究1.永青文庫所蔵品に見る収蔵経緯の特色1.注文品や輿入れ道具として,直接,細川家の収蔵となったもの。2.他所にあったものを後世に細川家が買上げるか,または献上(召上げ)された3.経緯不詳ながら,細川家伝来品として所蔵するもの。研究者:財団法人永青文庫学芸員平林はじめに南北朝時代の和泉半国守護頼有を祖とし,藤孝を近世初代として,三代忠利の時に肥後熊本藩主となった細川家は,明治維新まで綿々と続いた大名家である。維新後も侯爵家としてその地位を保ち,戦後の身分制度崩壊後も旧大名家として存続している。その代々伝えられた美術工芸品は,数々の災難を乗り越え,幸いにも大規模な流出や消失の危機を逃れ,現在,財団法人永青文庫に所蔵されている。しかし,それら美術品,中でも絵画について学術的に研究され尽くしたとは言い難く,ましてや膨大な藩政史資料に着目した研究は,ほとんどなされていない。そこで近世絵画に焦点を当て,作品と資料の調査に基き,細川家における収蔵品の特色,蒐集と伝来の経緯を明らかにし,さらには,細川家と近世画壇との関係を探ることを本研究の目的とした。その成果は諸大名と近世画壇との関係を解明する上においても示唆するものともなるであろう。永青文庫に所蔵されている日本画は,歴代肖像画を始め,中世絵巻,禅宗絵画,漢画,大和絵,洋風画,琳派,円山四条派,南頭派,文人画,博物画,近代日本画というように,時代,分野,流派と多岐に亘る。比較的少ないのが仏画で,浮世絵が皆無なのは大名家の典型と言えようか。それら作品の収蔵経緯については,全てが解明されているわけではないが,大まかに分類すると,次の3つが考えられよう。もの。である。本研究では,ひとつめの注文品や輿入れ道具として直接細川家の収蔵するところとなった作品に注目する。これらは大名家収蔵品の典型を示すものであり,また家ごとの特色が顕著となるからである。細川家には,雲谷派の流れを汲む矢野派を主流とし彰

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