⑩ C.D.フリードリヒの1820年前後における様式転換について一一C.G.カールスの風景画論を手がかりとして一一研究員:(賊安田火災美術財団安田火災東郷青児美術館学芸員ドイツ・ロマン主義の画家,C.D.フリードリヒ(CasparDavid Friedrich 177 4 1840) の風景画は,画業のほぼ中期,1820年前後に比較的大きな様式転換を迎える。転換の要因は種々挙げられてきたが,フリードリヒの思想、性が再三論じられている割には,この転換期における思想的役割についての研究は未だ十分ではない。本調査研究はこの転換期の様式を特徴づける自然主義的傾向に着目し,その思想的背景の一端を同時期に親交を結んだ自然科学者兼画家のC.G.カールス(CarlGustav Carns 1789-1865) の風景画論『風景画についての9つの書簡j(1815-1824) (注1)との関係に求めようとする試みである。I . 1820年前後の様式転換について1820年ごろを境に新しい展開が見られるフリードリヒの作品の諸要素は以下のとおりである。それまでの前景と後景を対照させた二元構成やシンメトリー等の,宗教的,象徴的な意味を表すための厳格な構成〔図1〕に対L,ゆるやかで自然な構図〔図2〕が現れてくる。描写対象においてはこれまで十字架や聖堂等の極めて宗教的な象徴物を配した作品が多かったのに対し,実際の生の風景を切り取ってきたような風景,ヴェドゥータのような風景も登場し,また僧侶に代わって一般市民としての人物のモティーフが,風景の画面の中により大きな位置を占めて頻繁に登場してくる。色彩においては,抑制された暗い色彩から,より現実味を帯びた明るい色彩をも画面に取り入れるようになる。こうした画風の変化は,全体としてより現実的な世界を反映しているという点で,自然主義的な方向への展開として特徴づけられる。この自然主義的転換は,総体的にはロマン主義から自然主義へと移り変わっていく当時の芸術全般の動向の中で捉えることもできるが,個々の直接的な理由としては,これまで指摘されてきたとおり,様々な要因が絡み合っている。その主なものとして,フリードリヒの実生活上の新しい展開がある。この時期はナポレオン戦争とその後の〈序〉I工)|| 土句666
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