鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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3.本年度の事業4.所見ポンペイ壁画の画像情報化に必要となる資料収集のため,昨年秋にイタリアへ調査旅行を行い,ボンベイ遺跡,ナポリ国立美術館,ナポリ考古学博物館の三ヶ所で新たに約100点の作品の写真撮影を行った。これら新規撮影写真資料については,データベース化がいまだ終了していないものの,最終的には「ボンベイ遺跡画像データベース」との統合が図られることになっている。この海外調査と並行して,総合研究博物館では学内諸部局に学術遺産として残されている歴史的な学術標本約1000件について,写真撮影ならびに超高精細画像入力と文字入力を行い,文字・画像併存型の「東京大学所蔵学術遺産データベースjを立ち上げることができた。これについても新たに存在が確認された資料や,あるいはいまだ画像収録の終わっていないものがあり,今後もなおデータベース化の作業を継続する必要が生じている。また,これまで継続的に行ってきた,欧州各国の博物館・美術館におけるデジタル・ベースの情報基盤事業の実態調査の一環として,新たにスペイン,ロシア,オランダ,ドイツに関する情報を収集し,過去2年間に蓄積されたデータと併せて,欧州12ヶ国の主要博物館における展示公開事業と情報基盤整備事業の実態を一通り把握することができた。博物館を取り巻く環境情報は,本事業の継続する聞にも,大きな変貌を遂げた。マルチメディアを始めとする先端技術の導入の有効性や経済性,目的や機能を巡り,その是非を問うという議論はすでに沈静化し,いまや先端的情報機器の利用の上に,さらなる多元的な展開の,「構想Jでなしに「実現jが求められているからである。もちろんこの間にもデジタル情報は博物館施設のなかに日々蓄積され続けており,データベース用素材としてすでに膨大に膨らんだ情報財は,活用のための出口の仕上がるのをいまや遅しと待っている状態にある。しかし,圏内の博物館・美術館の多くは,現在もなお情報財の活用について明確な展望を見出せずにいる。デジタル情報財を活用するにあたってどのような形式が適当であるのか,どのような演出が可能であるのか,あるいはどのような効果が期待できるのか,こうした研究課題に対して積極的な取り組みがなされていないからである。735-

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