鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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れているということ。たしかに,この10年ほどのあいだ,デジタル画像の驚異的な品位向上や高束通信網の飛躍的な拡大発展もあって,博物館の将来を先端的テクノロジーの利用可能性に託そうとする向きもないではなかった。しかし,博物館の現場を預かる者の多くは,そうした時流を前に,専門家としての学術的スタンスを揺るがせにしない。企業サイドの華々しい喧伝とは裏腹に,デジタル画像の再現性や保存性や可塑性が歴史的な遺産の管理や保存や復元にどのように活かせるか,つとめて冷静に考えようとしているのである。「デザイン」の要請二十一世紀の博物館とはいかなるものか,この間いは不毛である。なに一つ予想し難い時代にあって,いたずらに幻想を振りまいてみても得るものは少なかろう。とはいえ,そうした議論の前段として,「二十一世紀博物館jの必要とするいくつかの要件を挙げることは,そう難しくない。要件の第一は,「デザインJに関わる戦略。建物の外観はもちろんのこと,また出版物やパッケージ媒イ本におけるCI(コーポレート・アイデンテイティ)や,館i内で利用される機器や調度,展示の技術や情報のメディアについて,「デザインjの独創性や創造性,さらには美的な質の高さの追求が不可欠であるということ。すでにそうした傾向は顕在化しつつあるが,博物館の存在は文化の様々な局面で象徴的な意味合いを今後も益々強めて行くに違いない。都市部の生活圏や商業圏のなかに埋没するのでなく,大衆的な文化情報基盤のなかでランド・マークとして突出することが求められるようになり,そうした社会的ニーズに応えられるような,斬新で、美しい「デザイン」の創出が,施設,設備,機器,画像,データベース,PR媒体など,博物館活動を織りなす要素のすべてにおいて重視されることになるだろう。第二の要件は多様性である。博物館は決して横並びであってはならない。互いにその独自性を競い合うことが是非とも必要なのである。たとえば,あくまで古典的な展示手法に拘り続ける博物館があるかと思えば,ヴアーチャル・ミュージアムを全面展開してみせる「教育+娯楽」(education+entertainment= educatainment)的な博物館類似施設もある,というように。問われるのは規模の大小でなく,企画の徹底性であり,運営の一貫性であり,要は,展示の質の高さなのである。もちろん,作品の実物展示-738-

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