鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
751/759

にせよ,デジタル画像の代替展示にせよ,隅から隅まで空間全体の「デザインjに調和が保たれていなくてはならないが。いずれにせよ,他に類例を見ないユニークな博物館であり続けるための努力を怠ってはならない。第三は古典的な時空間概念の克服である。博物館の物理的・理念的な時空間概念は,過去から,現在を通して未来へという,一元の線的な時間概念にこれまで縛り付けられてきた。いかに未来志向系を標梼する施設といえど,この聴から自由であり得ないというのが,これまでの経験の証するところである。端的な例は,たとえば,展示を構成するにあたって,あるいはデータベースを構築するにあたって,われわれの念頭にはつねに線的に進化する時間の概念と,中心に対する周縁という空間の概念の両方があり,それらに縛られたままに展示物を構成し,情報財を整序するというのが実態である。年代の表記を欠いた展示物が博物館の空間のなかに場所を得ることができないのはそのためである。しかしながら,現在のわれわれを取り巻く情報環境では,インターネットによる均質で,しかも無方向,無限定,無時間的な情報のやり取りが現実のものとなっており,これまでの歴史年代的な,あるいはユークリッド幾何学的な時空間概念では,もはや把握し難いものとなっている。二十一世紀には現在よりもさらに,こうした新しい時空間概念が社会生活の様々な局面を支配するようになることは眼に見えており,博物館のコレクション(モノとしての学術標本や記号としての情報財)についても,近未来の情報環境に即した「かたち」での提示の仕方が必要となることはもはや疑いを入れない。第四はマルチメディアのさらなる活用方法の開拓である。これは時代の流れからして必定である。この問題については,世界博物館会議(ICOM)の奨めにもある通り,活用の方向や範囲を明確に見定めておかねばならない。すなわち,コミュニケーション(情報通信)とドキュメンテーション(資料管理)の二つの業務に限定するのか,あるいは,プレゼンテーション(展示公開)にまで踏み込むのか。これらの三者をデジタル情報ネットで結節するのがマルチメディアの本来的な特性であることからすれば,博物館の目指すべき方向も自ずと明らかになろう。がしかし,実際のところ,言うは易く,行うは難し。デジタル化事業の諸課題いま世界各地の博物館美術館図書館で推進されている画像情報化(デジタル・-739-

元のページ  ../index.html#751

このブックを見る