鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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(3) 国際会議開催① 国際美術評論家連盟日本大会期間:1998年9月28日〜10月5日所:東京,スパイラルホール(青山)ほか報告者:国際日本美術評論家連盟日本大会事務局長南保史生国際美術評論家連盟日本大会には海外から102人,国内から56人の参加があったが,そのうち40人が発表を行った。テーマは「メモリー・アンド・ヴィジョンー伝統からアイデンテイティーへ−J,「モニュメント・アンド・イコン一社会における美術の新しい方向性一」,「インターネットに向かつて新しいテクノロジーと美術の非物質化」の三つである。第一のテーマであるアイデンテイティー問題に関しては特に招待したアジア,南米の評論家から独自の見解が提示され,欧米からの参加者と重要な意見交換の場を創出することとなった。特に日本の美術評論家の南罵宏氏のアイデンティティー批判は,街撃をもって受け取られ,その後の取材や執筆申し込みが相次いだ。また,第二のテーマに於けるパブリックアートについては,各国の事情が政治・経済・文化的コンテクストなどのさまざまな要因によって異なっていることが浮き彫りにされた。アメリカのジュディス・スタイン氏は,公共事業に美術作品の制作を初めて取り入れたフイラデルフィアの状況を紹介することでこの問題を考察することを試みた。第三のテーマとなったテクノロジーとアートについては,未だに否定的な立場をとる人,肯定的な立場をとる人などと様々な発表があり,今後も引き続き議論されるべき議題であることが明らかとなった。また,オランダのポール・グルート氏,日本の森司氏からは,この我々にとって新しいメディアを美術批評の立場から正しく表する方法,言葉についても,問題提起がなされた。また,シンポジウムでは,6カ国7人の参加者が会議の3日間の議論を踏まえて,更に意見交換を行い,それぞれの国,社会,立場からみた美術の役割,意味についての問題提起が活発に行われた。これは一般の観客にとっても,本シンポジウムのテーマである「変貌する社会と美術」の最前線の議論に触れる機会として意義のあるものであった。場-741-

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