鹿島美術研究 年報第16号別冊(1999)
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2.人と人との関連性を表現する上で,比較的高い芸術的素質を持ち合わせていた。皇帝の兵馬備に見られる高度な描写法にまで発展したことは,伝統的流れの継承である。秦国の軍隊の構成には,中央アジア(かつて塞族が活躍した地)や西アジアの人々までもが加えられていた。塞族儒,秦偏に共通する造型的特徴は,地域性に由来するものと判断できる。楚・三晋・塞族そして秦の偶像とは異なり,斉備は質素でありながら「豪放さも兼ね備えた美」を追求する東方式の美意識から生まれた作品である。各々の地域性により,審美観に差異があるため,単に実際の人間に「似ているJ,「似ていない」ことで,芸術作品のレベルを語るのは,正当で、はない。従って,斉人の高度な群像製作技術レベルは,評価されるべきである。韓非は,かつて,「象人百万,強くないとは言えない」と述べている(注10)。この言葉は,某かの学者により「象人」すなわち陶伺であるとの前提のもとに,春秋・戦国時代における彫刻製作活動の規模の大きさを説明するために引用された。しかし,この件については,さらなる研究が求められる。というのは,これまでのところ「象人百万jに匹敵する当時の偏像の出土はないことによる。斉備の群像のように各々の備に何らかの因果関係を持つ群像の実例が,他に認められないことから,斉備芸術の存在がいかに重要であるかが見て取れる。群像芸術を表現する際の留意点は,表現対象となる人像の配列が鮮明であるか,相互が合理的に制約し合っているか,バランスがとれているかにある。ある種の統ーされた芸術的構想のもと,全体の局面を協調する創作活動を行なうことが重要である。個々の像の役割,またそれらが群像として融合性に富んでいるか否かについて,鑑賞者に理解させるものであるならば,それは成功作品と言える。女郎山の遺跡から一度に大量の斉備が出土した際,それらは散乱していたものの,直ちに各備の位置関係を整理することができた。工匠の抱く創意の存在により,それぞれの部門に分類することで単調感が克服され,組合せの特徴や全体像が一目瞭然となったOこの群像は,歌唱偏,舞踏備,太鼓を打つ伺,鐘を打つ偏,琴を弾く備など,各々の彫像の役割に応じて配置されており,製作者が全体を概括する技能がなければ,このように優れた作品を作り出すことはできまい。斉備の作者は,群像製作における法則性を把握していた。この点について,三晋備と楚儒からは,ほとんど見当らない。これまでに発見された三晋備の大部分は,一応-73-

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