鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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① 黄葉仏像様式の研究研究者:北海道医療大学歯学部教授江口正尊はじめに我が国の近世美術史及び近世彫刻の研究は,従前より多くの人々にその重要性を指摘されてきたにもかかわらず,現実的に論文等の成果は頗る僅少であった。注目の度合いが低かったのである。よって,中国僧隠元禅師が寛文元年(1661)八月二十九日「黄葉山高福寺」に晋山して一山開立となった黄葉宗に関する研究も未開発の分野が多く,昭和四十七年の禅師三百年大遠詩を契機にようやく志篤き一部の学究がその緒についたばかりという現状であった。此の度,我が国の美術界において高い権威と多くの実績を誇る『鹿島美術財団Jの平成十一年度「美術に関する調査研究の助成」を得たことは,黄葉一宗の宗教的範囲にとどまらず近世美術史・彫刻に関する評価の再構築を社会に披涯することとなり,改めて本財団の見識に敬意を表するものである。またこのことは本方面の学究にとって自らの研究が決して孤立的なものではなく近未来的に統ーした集成が成就する好機を提供してくれたことをも意味するものである。中でも,大阪の張洋一氏,栃木の北口英雄氏や福岡の楠井隆志氏はそれぞれの地域で,近世における宗教造型作品の製作者,及ぴその芸術性と社会的背景などを詳細に調査・研究し,そのまま日本の特徴ある精神文化を形成する信仰史と,近世の仏教文化財に計り知れない感化を与え続けていた黄葉宗の影響について言及している。更に,武蔵野美術大学の田辺三郎助先生を始めとして,北九州大学の錦織亮介氏,花園大学の大槻幹郎氏,仏教大学の松永知海氏,福岡国際大学の山本輝雄氏,そして,黄葉山寓福寺及び同宗務本院や黄葉文化研究所の田中智誠氏は遅筆の筆者に絶えず叱時激励してくれる先達である。なお,黄葉宗並びにその関係学会,各機関紙等に「黄葉仏像彫刻研究jの拙稿を重ねてきた筆者の直接的な師であった黄葉山高福寺第五十八世,牛頭山弘福寺第三十四1 . 1999年度助成I .「美術に関する調査研究の助成」研究報告

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