鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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(3)「不忍池図j小田野直武絹本着色縦98.5×横132.5〔図3〕(4)「蓮華図」小田野直武絹本着色縦106.0×横32.6〔図4〕(5)「鷺図」小田野直武絹本着色縦107.0×横49.5〔図5〕(6)「鷹図J小田野直武絹本着色縦108.0×横41.5〔図6〕添えていて,その上は青色系の色が薄く一面にひかれている。重要文化財に指定されている秋田蘭画のなかでは最大の作品である。画面には池水と空が大きく広がっていて,その占める面積が70パーセント程もなるであろうか。水の色と空の色はほぼ同系の色彩が使われていて,地表からすぐの上辺は帯状に白く,それから上は青緑系の色が薄くヲ|かれている。神戸市立博物館に所蔵される作品だが,薄桃色の蓮の花,大きく拡がる葉,高く伸びた茎を大きく描き,画面下辺に対岸の景色が薄く描いである。掛軸形式の縦長の画面の空は,地表からすぐの空間は白く,上に向かつて淡い青色系の着色,雲を表す白抜きの部分,そして最上部は青色系の着色となっていて,1.〜3.までの空の描写とはやや違って,上空に雲を入れた空になっている。菖蒲の咲く沼の朽木に鷺が止まり餌をついばもうとしているのかじっと水面を見ている。紫色の菖蒲と薄紅色の葵も美しく叙情的な作品である。背景の大きな壊れた杭か橋げたのような木がいかにも写実的で現実の風景を感じさせるほどに洋風画になっているのだが,花鳥山水の美も感じられる優作なのである。背後の空といえば,沼の向こう岸に水鳥が飛ぶあたりの低い部分は白く(絹がやけているが)上にいくに従って青味がかった色がかけられている。掛軸用の縦長の画面左隅の下から上まで崖が大写しに描かれ,画面の外から伸びて来ているように見える太いが先の折れた枝に振り向きざまの鷹が止まっている。下辺には海岸と垂直に近い崖が奥のほうに続く。空の描写は,雲の流れるような形が白く抜かれてはっきりわかり,その周りには薄い青色系の色がかけられている。(7)「富巌図J小田野直武絹本着色縦43.5×横77.0〔図7〕富士を背景にした風景図で,小さな橋の手前で話を交わしている二人の人物がいて,自然な風景描写になっている作品だ。静岡県黄瀬川の辺りから見える風景といわれ,直武が実際見た風景かもしれないと推測されている。この作の空の描写も直武の作品中最も現実に見える空に近く,低くたなびく雲の様子がその感を一層強めている。126

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