鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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(5)「松に椿に文鳥図」佐竹曙山絹本着色縦106.0×横43.7〔図10〕(6)「松に辛夷図」佐竹義明絹本着色縦121.0×横31.0〔図11〕(7)「日本風景図」小田野直武絹本着色各縦122.5×横43.4〔図12〕れ下がり松葉が豊かに描かれている。葉の描き方は葉を一本づっ丁寧に描き込んだもので,松かさもまるで実際見て描いたか,写生を元にしたかのように念入りに描いているのがこの絵の特色だろうか。画面右下から左上に松の太い幹を,その背後につがいの文鳥が止まる赤い椿を描いたものだが,上端に松の小枝のわずかな松葉を添えている。ただし,わずかな松葉の描写からは,佐竹曙山の松葉を描くときの徹底した型のようなものが見れる。ここの松は勇定していない大きな松の葉であるから,葉そのものは伸び放題なのだ。その葉を一本づっ描いているのであるからまさに松葉をかたわらにおいて描いたかのようで,おそらく写生したものから下図を取るような描写方法が想像されよう。佐竹義軒は草木類を多く絵にしている。この図は,松を対角線上に斜め上に太い幹を描き,その後ろに白い大きな花を付けた辛夷を配し,下辺には遠くはるかにまでに続く湖水と山々の風景が描き添えられている。佐竹曙山の(5)「松に椿に文鳥図」等と大筋では似た構図であるが,松の葉も一本づつの線をヲ|いて描き表しているところも類似している。小田野直武は佐竹曙山のように松葉を克明に描く作品は残していない。洋風画になる前の狩野派の筆使いで描かれた「松に鷹図」のほかは見当たらないのではないか。この双幅作品の右幅に切り立った崖の上に松が描かれている。この松も構図上は近景の部分に位置しているが,はるか崖の上に描かれているので克明に描写されてはいない。遠く向こうの崖に生える松の葉の薄い着色と対比させるため,葉の部分は比較的濃い色の平面的な彩色である。以上7点の作品の松葉の描写に視点をあて述べてみたが,ここでは間近に見る松の葉をどれだけ忠実に描写しているかが問題となるのである。この7点の作品中の松葉は,洋風画以前もしくは洋風画を描く時期になっても伝統的な筆法による作品中の松と一線を画しているのは明白である。松葉一本ずつを線描しながら,また松かさを正確に描写する。このような手法の変化はやはり秋田蘭画の画人特に佐竹曙山の写実的な画法を証拠付けるものであると考えられるのではないだろうか。秋田蘭画以前のわが国の絵画に登場する松の描写を少しひもといてみると,室町時128

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