注(1) 1987年サントリー美術館『日本博物学事始一一描かれた自然絵師としての認知度が高く,身分的には役職名がなかったとしても充分に絵を描ける境遇にいたと推測される。車吉5苦にかえて秋田蘭画の空の描写については,これまでほとんど問題にされてこなかったが,透視図法や陰影法を駆使して空間の処理に苦心したであろう小田野直武ら秋田蘭画の画人たちの眼に,青い空,白い雲は,確かに映っていて,その描かれた空は秋田蘭画の現実的に見せようとする風景の現出に一役買っているのだと考えたい。ごく僅かな作品の基礎的な観察で,しかも他の同時代の作品との比較検討もせず独断と偏見を免れないとしても,透視図と陰影法のみで洋風画といってしまうことだけは謹まなければならないと言いたいのである。次に,松葉の描写については,これも空同様些細なことと叱責されそうだが,古来吉祥のモティーフである松を好んで描いた秋田蘭画の画人,特に佐竹曙山の松葉は,秋田蘭画の画人が単に西洋画の技法のみに執着したのでもなく,また博物的趣味のために絵を軽んじたのでもなく彼自身の新たな絵というものを追求する姿勢を感じさせてくれるのである。西洋画により近いという基準で言えば,司馬江漢や亜欧堂田善の方が進歩しているとみられでも良いが,絵そのものの純粋な芸術性から言えば,秋田蘭画の作品は洋風画の範轄を超えてもっと高い境地を示しているのではなかろうか。最後の小田野直武の初期作品については,直武が職業的画人であったのではないかと考え言及したのだが,今後の傍証史料に期待したい。西山松之助氏が「員写文化の展開Jと題して『自然の美や珍奇さを鋭い目をもって椴密精細に,そのあるがままの「異」の姿を写生した絵画』が『時代的に十八世紀から十九世紀にわたる約一世紀聞に集中しているjと述べられているほか,秋田蘭画とほぼ同時代に描かれた動植物図譜の概観が注目される。また,今橋理子氏著『江戸の花鳥図』(1995,株式会社スカイドア発行)全編と山本武志氏著「秋田蘭画・小田野直武をとりまくイメージ」「東北の洋風画関連年譜」(1999,秋田県立近代美術館発行『東北の洋風画』展覧会図録所載)に教えを受けた。』展覧会図録に,134
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