鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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とされるのである。作品自体を実見した際に,幾つかの点を確認することができた。先ず標題紙の裏面には画との対応を示したと考えられる記号がかなりの割合で確認された。従って,肢にあるように,画と標題は一時期分かれて保存されていたと考える方がよかろう。下冊第16図の左下隅に記された「孤雲処士」款は他作品に見える王振鵬の落款と比較すると明らかに後入れと判断されるので,この落款の存在によってこの画面を最終場面とすることはできない。画面を実際に繰っているとはっきりと実感されるのだが,各画面の大きさはかなり異なっている。その差は縦横それぞれ最大で2cm以上に及ぶ。又,画絹の破損の輪郭が非常に近似した画面がありある時期に画は画として重ねて保管されていたと推測される。これらのことから,図様の完結性と画面の大小を合わせて考えても,この画冊の元の形態を画冊ではなく画巻と断言するのは困難であろう。しかし,その一方で,例えば,上冊第1図(標題なし)・上冊第9図(標題「唐僧過女人国J)・下冊第14図(標題「高程河降大威顕勝龍」)・下冊第16図は画風が酷似しているばかりでなく,大きさも縦34.5〜34.6cm,横25.9〜26.lcmとほぼ一致している。この他にも,画風が酷似する上に共通のモティーフが認められるため,対のような画面の組み合わせが幾っか存在する。以下の通りである。上冊第5図(標題「遇観音得火龍馬」)上冊第4図(標題「石盤陀盗馬」)登場する唐僧・侍者・馬・龍,背景の砂漠・黒煙の表現は明らかに共通している。上冊第3図(標題なし)上冊第6図(標題「流沙河降沙和尚」)武人が両図に登場しており,画面下方の射る武人と逃げる唐僧が左右で連続するようである。上冊第12図(標題「飛虎国降大班J)上冊第11図(標題「飛虎国降小班」,〔図2〕)両図に虎が登場しており,現状でも連続して配置されている。下冊第11図(標題「過載天関見香因尊者」)34.2×27. Scm 34.1×28. 5cm 34.5×26. 9cm 34.3×27. 7cm 35.0×27. 6cm 34.9×27.3cm 34.4×26. Scm 156

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