タ)Jに,陶酔しつつ聞き入る様子を活き活きと叙述している(注4)。画家自身の意図がどのようなものであったかはともかく,ホフマンの命名が,この作品にみられる禁欲的なまでの構図の正確さと,ぎこちのない演奏者達の身ぶりに,的確な物語を与えたことは確かで、あろう。この作品の特質は,椴密に組み立てられた空間構成にある。観者が正面に臨む園亭の壁と,左右の側壁がっくり出す二本の垂直線によって,厳格な一点透視図法で構成された画面が三分割されている。観者の視点と,遠近法の消点を結ぶ直嫌に沿って,三つの「窓」,一一則ちアーチ型の園亭,正面突き当たりの壁に穿たれた方形の開口部,そして戸外に見える並木道これら三つの「窓」の聞の距離感を誇張するとともに,観者の視線を勢いよく後景へと導く。円卓を挟んで座す二人の婦人が,僧侶の指揮にあわせて音楽を奏で,旅龍の主人が園亭に踏み込む給仕の少年を身ぶりで制す。風俗画的な主題にもかかわらず,ギター奏者のプロフイールや登場人物の大仰な身振りには,古典主義美術の作法が認められる。『フェルマーテ』によって一躍ベルリン画派の筆頭となったフンメルは1817年,ポツダムのガルニソン教会の装飾プロジェクトに他の五人の画家とともに参加,キリストの生涯を表す連作中,『最後の晩餐Jを担当する。注文主である国王は,すべての画家に美術史上の重要な作例を範とするよう指示した(注5)。この国王の意向はフンメルに少なからぬ困難を強いたはずである。なぜなら,フンメルが範とすべきレオナルドの同名作品が横長の画面構成となっているのに対し作品の展示場所となるガルニソン教会の壁面は全て,一律に縦長であり,主題に沿った遠近法的解決を見い出すのが困難であったと推測されるからである。が,結果的にフンメルの作品は全6作品の中でもっとも成功をおさめたものとなった(注6)。レオナルドの先行作品との共通点は,一点透視図法の使用や頭部の描写,背景の建築物等に認められるものの,全体としてはフンメル独自の構想が活きた作品となった。舞台となる食卓は画面の比率に呼応して縦に長く,視点は鳥服図といってよいほど高い。その結果,画中の各々の登場人物が,観者の視点からなるべく等しい距離に位置するよう,殊に観者からもっとも遠い位置にあるキリストの顔が弟子達のそれに比して縮小されすぎないよう配慮されたのである。この遠近法的解決はシンケルの賞賛を浴びた。『最後の晩餐』によって線遠近法の使用における自らの技備を示したフンメルは,2が配置され,急な短縮法によって描かれた遠近法が,164
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