鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
179/763

のt克のイ吏用j去は,フンメlレ1虫自のものといってよい。い,一点透視図法による強い正面性と,無限に反復する鏡像が作り出す均質な絵画空間が同時に表出する。観者が相対する画中の空間構造は,俄かに見極めることが困難な程複雑な様相を呈しているが,前景の人物が手にする紙片一一この架空の建築物の平面図一一ーに目をむけるならば,その複雑さは鏡によってっくり出された虚像にすぎず,それは観者の属する空間,すなわち絵画平面のこちら側の空間を想定したものであることが気付かれるのである(注9)。壁面を覆う鏡像を通じて,観者が絵画の内部空間を,立体的に再構成することを可能ならしめる,このような数学的な遊技として1. 2.1 陰影の使用法:イタリア時代ごしたカッセルのアカデミーでは光学に関する基礎的な訓練を受けることができず,後年ベルリンにおいて,初めてその研究に打ち込むことができたとされる(注10)。だが,イタリア時代(1792-1799)の初期作品を検証するならば,フンメルがモノクロームの平面構成における陰影表現をことの他重視していたこと,そして陰影を平面的,幾何学的に処理する天賦の才に恵まれていたことが判るのである。画家のイタリア時代に生まれた風景連作版画の一枚『ティヴォリのエルミタッジョ』〔図7〕(1798)は,その好例といえる。観者の視線の高さに消点をとった一点透視図法の風景は,画面の対角線に沿って天(光)と地(影)の領域にほぼ二分されている。地上の風景は逆光に被われ,奥行きの浅い書き割り画のようにその平面性が強調されて見える。画面右上の木,画面中央に見える建築物の切り妻屋根,そしてその稜線を下方へとつなぐ樹木の輪郭線が,地上を水平方向に走る影とともに三角形のパターンを形成し,空に浮かぶ雲の輪郭は,その三角形に対応した菱形を描きだす。光と影の対照が力強い律動感を生み出す,この作品にその兆しを認めることができるように,絵画における陰影表現は,線遠近法と同様に,フンメルがその画業を通じて取り組むべき課題となる。1. 2. 2 夜の発見専ら太陽光による影の表現に重きをおいていた画業の初期とは対照的に,1810年代半ばに入ると一一当時のベルリンでその存在を知られ始めていたドレスデンのロマン1838年に発行されたナグラーの美術家辞典に拠ると,フンメルはその修行時代を過

元のページ  ../index.html#179

このブックを見る