れを補填し,創作時期を推定する上でも貴重である。この小研究は,富本憲吉が創作した膨大な模様の中,安堵村時代の風景模様に的を絞り,主に上記の資料と,多くが個人の所蔵になっている当時の陶磁器の作品の調査によって,創作した模様の種類とその成立期を明らかにする基礎研究である。従って,今後その対象を風景模様以外にも,そして祖師谷時代や京都時代に拡げる必要があることは言うまでもない。なお,個々の模様の形成過程については,紙幅の都合から3件を例示するに止めた。安堵村時代の風景模様を描いた図巻類墨書「雲富本憲吉四十四年六月自画自刻」明治43年6月イギリス留学から帰国直後の富本が取り組んだのは,ヴイクトリア・アンド・アルパート美術館で啓発されたという(注4)自画自刻の木版画である。この「雲jは現存する最も初期に属する大和の風景模様で,信貴山かと思しき山並みを背景に(注5),安堵村の遠望と特に強調した雲を描く(付表「雲JA)。この風景の中の雲のみを独立させたと推定される模様が,大正4年の柳屋書店の法被のデザイン(付表「雲JB富本憲吉記念館蔵),大正7年の『富本憲吉夫妻陶器図巻』の「白磁刻線雲」皿(1対の雲,付表「雲」c,〔図2〕)としてみえ,大正9〜11年にかけて査・徳利・香食・水滴・灰皿(付表「雲」D,〔図3〕)などの陶磁器に描くものなども同様である。(2) 「小屋(仮称)J自画自刻多色刷木版画縦21.5cm横25.7cm個人蔵。〔図4〕墨書「明治四十四年八月十一成」。明治44年8月18日付の南薫造宛富本憲吉書簡(注6)に封入する。『富本憲吉模様集Jる。(1)『宮本意吉夫妻陶器図巻』紙本墨画巻子装l巻全30図風景模様4図個人蔵I .初期の木版画(1)「雲J自画自刻多色刷木版画縦16.2cm横25.Scm個人蔵。〔図l〕第2冊99所収の「灰小屋」〔図5〕と同じ小屋であり,また大正14年の磁器に集中する「小屋と道」(堆肥舎と道)の陶板〔図6〕や角笛,あるいは『富本憲吉模様集J第3冊148の「半ば朽ちたる堆肥舎」(「堆肥舎と雀J〔図7〕),の源流をなすものと思われII .大正時代の図巻類240
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