鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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E系…C系とほぼ同じ景観ながら,大木を特に意識せず梨樹と同程度に小さく描く。16日付の野島康三宛書簡に「御所有高塚之図は小生のものに小さき六角皿にかきたる者は落葉の状態で雄大な幹を主体にしているのが特徴で以後の樹は特殊な例(後述のD系統)を除いて全てこの後者の表現となる。名称については,模様集の第2冊に収録するので「老樹」と呼び始めたのは大正8〜10年らしく,大正13年初夏の『新作陶器拾弐図』ゃ『異本安堵村八景』も老樹と記すが,一方で,「大和国安堵村高塚之景」と記した大正9年の水墨画があり(個人蔵)模様集の原図についての大正10年の10月同図ありJ(〔図18〕を指す)とみえ,前記『安堵村八景』もそうであるように,その後も馴染んだ高塚(鷹塚)の名もしばしば用い,昭和13年夏の箱書きのある水墨画(個人蔵)も「老樹大和西安堵村高塚jと記している。また,この大木を特に意識せずにあたりの景観として描いたものは「小堂と径」(『富本憲吉模様集』第3冊147)と名イ寸けている。この場所は方向も変えて何度もスケッチを行ったらしく幾つかの種類があるが,これを整理すると次のように大別できょう。A系…初期のものとみられ,樹の幹と共に茂った葉も強調し,向かつて左に観音堂を配する。例,『富本憲吉模様集』第1冊29番甲所収「大和国安堵村鷹塚j〔図17〕OB系…落葉期の状態で雄大な幹を強調し,向かつて左に観音堂を,右に棒積藁を配する。例,『富本憲吉模様集J第2冊107乙所収「老樹j〔図18〕。陶磁器,角陶板(額裏に「1920年造Jの墨書,個人蔵)。C系…落葉期の状態で雄大な幹を強調し,向かつて左に観音堂を,更にその左に道を隔てて広がる梨樹を描き,右には棒積藁や左上方に群鳥を加える場合もある。例,「大和国安堵村高塚之景J(「1920」とサイン軸装個人蔵),『安堵村八景』所収「高塚」,『異本安堵村八景』所収「老樹」〔図22〕,「老樹大和西安堵村高D系…落葉期の状態で雄大な幹を強調し,向かつて右に観音堂を配する。また時に観音堂の右に棒積藁を並べる例もある。例,『新作陶器拾弐図』所収「陶板老樹」〔図19〕,『富本憲吉模様集』第3冊142「老樹j陶板〔図20〕。陶磁器,円陶板〔大正13年,図21〕。この系は専ら水墨画として描き,管見の限りでは陶磁器の作品には見られない。塚J(「昭和拾参年夏書之jの箱書,軸装,個人蔵)。陶磁器,円陶板(「大和安堵村高塚之景Jの文字及び「1920」とサイン)。-247-

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