鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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③ ミケランジェ口作「システィナ礼拝堂天井画」の記号論的研究研究者:熊本大学教育学部教授吉川1.方法論に関する序論記号論と図像解釈学ミケランジエロの「システィナ礼拝堂天井画」の「意味」の研究はこれまで図像解釈学によって独占されてきた。本研究のテーマは「システイナ天井画」の「意味作用Jを記号論的方法によって構成する可能性を探求することである。絵画に適用された記号論の基本原則を示すものとして,ルイ・マランの論文「絵画の記号学のための要理」(注1)をあげることができる。以下め考察では,この論文の内容を踏まえながら,絵画の記号論の基本姿勢と特徴について考える。マランによれば,記号学とは何ものかについての「言語活動jであり,一方,絵画は言語活動ではない,もしくは別の在り方での言語活動である。したがって,「絵画の記号学」は,言語活動の領域の外部にとどまらざるをえないものに関する言語活動として存在する。このように,絵画の記号学は,言語記号以外の記号を対象とする学であるが,このような学が一般科学として成立するためには,科学としての言語学をモデルにしなければならないとされる。ところで,絵画は決して単純な「非言語的対象jではない。非言語的とはいえ,絵画の体系の内には言語活動が恒常的に介入している。絵画においては,見られたものは語られたものによって二重化され,また,イメージは様々なカテゴリーに属する言語活動によって絶えず屈折させられているのである。マランは,絵画への言語のこの介入を「再現=表象における直接的であると同時に必然的な語棄化現象Jと呼んでいる。言語の介入を許す非言語的対象としての絵画は,こうして,見うるものと読みうるものとが織り合わさった織物=テクストとして姿を現す。「絵画的対象は,見うるものと読みうるものとを,連続した横糸にそって綴り合わせていくあの形象的テクスト(織物)なのであり,われわれの分析はこの横糸の内に様々な糸を区別し数をかぞえ,もろもろの結び目とそれらに固有の本性を標定する作業となる」とマランは言う。この作業こそ,絵画作品=タブローを「読む」という作業である。マランによれば,タブローは一編の形象的テクストであり,その限りにおいて一個の読解の体系である。その場合,「読む」とは何か。読むとは,「視線によってひとつ登20

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