又兵衛様式の継承と展開これまで又兵衛以降の名前の判明する岩佐派画人について述べてきた。彼らは作品に落款を入れるなど，絵師としての存在を誇示している。しかしそれはあくまで少数派であって，工房作や無落款の作品によってむしろ又兵衛の画風が流布されたといえょう。先ず又兵衛工房の存在は又兵衛京都時代の作と考えられる舟木本「洛中洛外図扉風」（東京国立博物館蔵）の存在を考慮すれば，京都時代の終わり頃にはすでに存在していたことは疑いなく，又兵衛が既に工房を必要とするほどの地位と実力を擁していた証といえる。そして福井移住に際しては，京都工房の絵師を引き連れたと考えるが，京都にも依然として工房，ないし門下の絵師が残っていた可能性は高い。福井では「山中常磐物語絵巻」（MOA美術館蔵）など，藩の用命による作画の注文も多く，地元福井の絵師も数多く加わっていたことは想像に難くない。また又兵衛の江戸出府により，江戸にも当然工房が置かれたと考えられる。工房内では又兵衛様式の均一化が図られ，個々の絵師の個性は極力排除されていたであろうし，そこで生み出された作品は又兵衛筆，または又兵衛ブランドとして世間に流通していったと考えられる。これら工房内で制作された作品は多種多様であり，又兵衛印を有しながらもそれら全てが又兵衛の筆になるのでないことは，これまでの研究でもたびたび指摘されている（注6）。そこには工房の絵師達が又兵衛様式にのっとった作品を制作し，又兵衛の監修を受けた上で印が捺されてるという，工房における一つの制作形態が見えてくる。特に「碧勝宮図」印以外の印を捺す作品には，又兵衛の署名が見られないことから，あるいは宗達の「伊年J印の知く，これらの印が工房印としての性格を持っていた可能性は高い。それが勝重の代になると又兵衛工房はどのような道をたどったのであろうか。今に残る勝重の作品から見て，彼が京都・江戸の工房と何等かの関係は保っていたにしても，積極的に全体を統括した可能性は少ないのではなかったかと考えられる。となればある者は福井へ移り勝重工房の下で働き，またある者はその地で独立し，町絵師として制作活動を行っていったと想像される。今日数多く残る筆致も荒く卑俗味の増した又兵衛風の作品〔図5〕などは彼らによって描かれたと考えられる。彼らは又兵衛が「荒木村重の子」という出自を武器にしたように，自分たちも「浮世又兵衛の弟子・子孫jを称し，又兵衛の様式・図様を受け継ぎアビールすることで作品を制作したの-301-
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