鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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つJ⑮ ニューヨーク近代美術館「初期の近代建築j展研究者:金沢市現代美術館建設事務局学芸員鷲田めるろ1933年,ニューヨーク近代美術館(以下MoMAと略称)で,「初期の近代建築:シカゴ18701910」展(以下「初期の近代建築j展と略称)が行われた。この展覧会は,今日いわゆる「シカゴ派jとして知られる建築の展覧会である。「シカゴ派Jとは,1880年頃から1900年頃までの聞に,アメリカ中西部の都市シカゴで活躍した建築家たちのことで,彼等は細い柱と大きな窓を持つオフィスピルを数多く設計した。代表的な建築家は,ウィリアム・ル・バロン・ジェニー,ヘンリー・リチヤードソン,ダンクマール・アドラー,ルイス・サリヴァン,フランク・ロイド・ライト,ダニエル・パーナム,ジョン・ウェルボーン・ルート,ウィリアム・ホラノすート,マーティン・ローチなどである。ただし,彼等自身は,自らを「シカゴ派jとして認識していたわけではなかった。1871年にシカゴで大火が起き中心街の建物が焼けたこと,その一刻も早い復興が求められたこと,土地の限られた中心街で有効活用が求められたこと,シカゴの地盤がゆるく,高層化には軽量な構造が求められたこと,エレベーターが実用化したこと,こうした理由から,当時最新の技術であった鉄骨構造のピルが建てられたのである。「初期の近代建築」展の企画1932年,MoMAは,初めての建築展「近代建築j展を行った。ル・コルピュジエ,ワルター・グロピウスなどを集めたこの展覧会は,展覧会に際して出版された『インターナショナル・スタイルJという書物のタイトルから,「インターナショナル・スタイル」という呼称を普及させ,アメリカのみならず世界の建築の動向に大きな影響を与えた。この展覧会の後,.MoMAは現在の場所に移転し,その際建築の常設の展示室が設けられた。そして,同じ年の夏には建築部門が設置され,「近代建築」展に関わったフィリップ・ジョンソンがそのチーフとなった。「初期の近代建築j展が行われたのはその翌年で,「近代建築」展に続く,二回目の建築の展覧会であった。ヘンリー=ラッセル・ヒッチコックとジョンソンによる『インターナショナル・スタイル』では,インターナショナル・スタイルに先駆けるものとしてシカゴ派が言及されており(注1 ),「初期の近代建築j展は,「近代建築j展で示されたインターナショナル・スタイ

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