鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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いから見上げる角度で撮られ,下の方の階は左手前のピルの影になって隠れている。ギーデイオンは,必ずしも意図的にこのように影になっている時をねらって撮影したわけではないだろうが,このことにより石を使った下層2階分が完全に隠れ,ガラスに覆われた上層部が強調される結果になっている(注19)。後者の写真の角度は,ほほ左側のリライアンス・ピルの写真と同じである。横につけられたコメント「夢想の世界への近代的な出立。もっとも,その考え方のなにがしかは,すでにリライアンス・ピルにおいて先鞭をつけられていた。J(注20)は,ミースの摩天楼案の先駆けとしてリライアンス・ピルを見せようとする効果を高めている。さらには,カーソン・ビリー・スコット百貨店とグロビウスのシカゴ・トリビ、ユーン杜ピル設計競技の案を並べたページ〔図9〕O前者の写真は上層部の窓の部分を撮ったもので,上層部の高さの異なる上端と装飾の付けられた下層部はカットされている。反射するガラスとそれを格子状に規則的に区切る細い窓間とスラブが強調されている。カーソン・ピリー・スコット百貨店の写真は,その前のページにももう1点,交差点の斜向かいのピルの6階くらいの高さから撮ったものが載せられている〔図10〕。このことにより下層部の装飾の部分ではなく上層部が強調される結果となっている。図版の右には「隅角部の円い塔は所有者の要求によってつけ加えられたものである」(注21)というコメントがつけ加えられている。隅角部は,窓合いが垂直方向に連続しており,塔のような垂直性を強調している部分である。「所有者の要求にょった」のは事実だったかもしれない。しかし,それをわざわざ指摘することには,この部分は設計者であるサリヴァンとは無関係であることを示したいというギーデイオンの思惑が現れている。このような見聞きページに比較する2点の写真を並べるレイアウトは,師のハインリヒ・ヴェルフリンから影響を受けたものだと考えられる。ヴェルフリンの代表作『美術史の基礎概念』〔図11〕が出版された1915年当時,ギーデイオンはヴェルフリンの下で学んでいた(注22)。ヴェルプリンとギーデイオンは,時代の異なる2点の作品を同じページに並べて比較している点では同じだが,その手法には大きな違いがある。ヴェルプリンは,2点の作品に相違を見出し,その相違を異なる時代の「視形式」の違いと結びつけてゆく。一方,ギーデイオンは2枚の図版に共通性を見出し,後の時代に見られる性質を前の時イtにさかのぼってたどってゆく。321

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