鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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⑨ 漢代画像における双鹿図の意昧研究者:成城大学非常勤講師北村永はじめに1954年に整理された徐州惟寧九女激漢墓出土の画像石に〔図1〕のようなものがある。この画像石は縦96cm,横225cmで中室両壁石刻といわれるが,この漢墓は早くから破壊を受けておりその位置は不詳とされる(注l)。画面は上下二段に区画され,上段には鼎と聖樹を中心にして左右に向かい合う神獣と鳳風,そして九尾狐等の姿がみえる。下段は右から左へ向かう車馬出行の図である。この上段の画像とよく似たものに江蘇省酒洪県曹廟公社の画像石があるが(注2),こちらは羽人像を中心にして二頭の向かい合う神獣が描かれる。これら神獣とされる動物は,有翼或いは体全体に鱗状の羽毛を有し,足には蹄があり,頭には二本の角がある。この神獣に一番特徴的なのは二本の角で,先がいくつかに枝分かれしており,いわゆる鹿の角とよく似ている。徐州唯寧九女激漢墓出土のものは,鹿というにはいささか太り気味であるが,これが鹿の角と蹄をその構成要素として想像された神獣であることに問題はないであろう。このような二頭の障って向かい合う,鹿に似た神獣もしくは鹿の表現は,その数は少ないものの,山東・江蘇・河南・四川・湖南の各地に確認される。以下,各図像を検討しながら,それが何を意味するものであるのかを考えていきたい。1 仙界への入口徐州唯寧九女敢i莫墓出土画像〔図l〕は,前述の通り上下三段に区画されており,下段は車馬出行の図であった。車馬行列に関しては,大きく分けて二種類の出行図がある。ひとつは生前の墓主人の身分を表すものであり,もうひとつは墓主人が死後の世界を行くものである。前者の車馬出行図に関しては先学の意見はほぼ一致しているが,後者に関しては天界あるいは仙界へと出行する場面とするもの(注3),地下世界から地上の洞堂等祭把用の建築物を目指して出行する場面とするもの(注4)等諸説あり,またその上方に描かれる楼閣拝礼図〔図2〕ついても意見が分かれている。これについては近年,曽布川寛氏が馬車による昇仙図の系譜を明らかにされた。氏の説(1) 聖樹-367-

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