によれば,「車騎出行図によって昇仙に出発した墓の主人公は,拝礼図の楼閣の傍らの枝の曲がりくねった聖樹の下で馬車を下り,楼閣の中に入って西王母もしくは東王父の家来の拝礼を受け,庖厨で用意された御馳走に舌鼓を打つという仕組み」(注5)である。下段に表された車馬出行図の目的地は,上段に描かれる楼閣なのである。このような,車馬出行の上層にその目的地となる世界を表したと思われるものには山東牒県画像石〔図3〕がある。車馬出行図の上方に広がるのは,百獣が舞う仙界であり,同じく牒県のもので,その雲気の中に西王母の姿が表されるものもある。では,九女撤i莫墓画像石にみられる車馬出行図はどこを目指して走っているのであろうか。林巳奈夫氏は,この画像の上段に描かれるものは其々独立したものが羅列的に表現された祥瑞図であり,そこだけで完結したものと考えられているが(注6),以上のような例をみれば,これもまた下層から上層への場面展開が考えられるであろう。残念ながらこの漢墓の画像石の詳しい位置関係は不明であるが,ここに描かれる車馬出行図は上段に描かれた場面と同様に画面全体に雲気が巡り,地面にはこの世のものとは思われない様々な植物が生えていることから,これが墓主人の生前の経歴を示す出行図でないことは明らかである。しかも,上段に描かれた鹿に似た神獣のいる世界には,九尾狐の姿がみえる。九尾狐は瑞祥の象徴と解釈されるが,漢代画像では西王母の春属としてよく知られるものである(注7)。すなわち,下段に表された車馬出行図は上段の西王母の世界へと走行しているとは考えられないだろうか。ところで,地上世界と仙界の境界線をしめす標識となるものにはいくつかの種類がある(注8)。先に見た武氏洞堂画像〔図2〕では楼閣の左側に枝がくねくねと絡み合った聖樹があった。楼閣の屋根や双闘には鳳風や羽人,場除の姿がみえ,墓主人は馬車からおりて仙界の楼閣へ到着したところである。この場合,仙界への出行に下層から上層へと一種上昇を示すムーブメントを読み取ることもできるが,これが水平方向で示される場合もある(注9)。〔図4〕は山東牒県官橋の画像石であるが,画面中央やや右よりのところに一本の樹木がある。その右側にはこの樹木をめざす車馬の一行が描かれ,左側は神獣がひしめく世界となっており,この樹木が仙界との境界棋にたっていることがわかる(注10)。このような樹木が仙界との境界嫌を示す標識となっているものには〔図5〕のようなものもある。〔図5〕は山東安丘県董家荘画像石墓の西後室西壁画像で(注11),何重にも巡らさ368
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