phu れた文様帯の内側の画面上段右端に武氏洞堂画像で見た聖樹と同様の樹木をみることができる。この聖樹には馬が繋がれ,その後方の枝には飼葉を入れた龍が下げられ(注12),樹下には一匹の犬が醇っている。この樹木の左上方にもやや小ぶりの聖樹があり,画面のほぼ中央に位置する山にむかつて狩の場面が繰り広げられる。山の左側は〔図3〕でみたものと同じ,多くの神獣が戯れる仙界の表現である。中央の山からは雲気が立ち上り,草木の間には虎や鹿等の動物が見え隠れしている。さらに興味深いことに,ここには向かい合って障る二頭の鹿の姿が表されているのだ〔図6〕。この二頭の鹿の体には羽毛を表す線が施されており,一目で単なる鹿ではないことがわかるが,管見によればこれについて言及したものはわずかに林巳奈夫氏の「山の神」とするものしかない。氏によれば「この大きな三匹の鹿を見れば,当時の人人にはこの山がなんといふ山かわかったはずであるが,我我には今のところ明かでない」という(注13)。山岳に表される鹿といえば,長沙馬王堆l号墓出土の朱地彩絵棺側板頭部の漆画〔図7〕がある。三角形の山岳を中央に配し,左右にはその頂にむかつて朔けあがるように二頭の鹿が描かれる。鹿は瑞獣のひとつとして仙界によく登場するものであるが,また仙界に飛期する際の乗り物としても知られている(注14)。漢代の昇仙先として知られる崖嵩山については曽布川寛氏の論考が詳しいが,氏は中央に描かれる山は鹿と関連した昆嵩山の話は不明なので,これを特定の山とせず仙山とし,鹿は昇仙を象徴する乗り物としての白鹿を表したものであると解釈した(注15)。確かに,毘嵩山と鹿を直接結びつける文献はないようである。文献にみられる昆嵩山を守る神としては『山海経J西山経に西南四百里,日昆命之正,是賓惟帝之下都,神陸吾司之。其神状虎身而九尾,人面而虎爪,是神也,司天之九部及帝之国時。とあり,人面虎身の陸吾という神がいるという。また同じく『山海経』の海内西経には,海内昆命之虚,在西北,帝之下都。昆命之虚,方八百呈,高高初。...・H・−−面有九門,門有開明獣守之,百神之所在。とあり,開明獣が崖嵩の門を守っている。開明獣も人面虎身であるが,九つの人面をもっといわれるものである。このように,文献に現われる昆嵩山を守る神は,虎身に特徴があるようであるが,こうした文献に現われる神々の姿を,実際の図像にあてはめることは時に非常な困難
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