⑧ 南インド,スリランカにおける〈アーンドラ式仏陀像〉の受容研究者:大阪大学助手島田デカン南東部のアーンドラ地方で紀元後2〜4世紀頃に興隆した古代仏教美術では,ストゥーパを飾る多数の仏伝図浮彫に加え,南インドでは最古の作例となる仏陀像の制作が行われた。それらはなだらかな肉警,扇平な螺髪,偏祖右肩の着衣形式,大衣に刻まれた流麗な衣文線などに一貫した形式的特徴が認められ,ガンダーラやマトゥラーの作例とはまったく異なる仏陀像の形式を完成している。アーンドラ式仏陀像と総称されるこの独特の形式は,同地方の造形活動が衰退した紀元後4世紀以降も,南インド,スリランカ,東南アジア諸国に伝播,継承された。すなわちガンダーラやマトゥラーの仏陀像がその後の北インドや中央アジアや中国の仏陀像の形式に影響を与えたのと同様に,アーンドラ式仏陀像は仏教の南伝ルート沿いの仏陀の一祖形として,重要な役割を果たしたと考えられる。しかしこの仏陀像の形式が上記の地域でどのように受容され,変容を遂げたのかについては,これまでほとんど具体的な検討は行われてこなかった。本研究ではアーンドラ式仏陀像の各地域での展開を解明することを目標として,中世南インドと後期アヌラーダプラ時代のスリランカで制作された仏陀像の調査を行い,多くの知見を得ることができた。しかしその一方で、,これらの仏陀像作例には年紀銘等によって具体的な制作年代が判明する作例が一点もなく,個々の作例の様式分析もほとんど手っかずの状態にある。よってこれらの仏陀像の詳細な様式展開を確定し,アーンドラ式仏陀像の受容と展開を総合的に明らかにすることは,なお今後の長期的な課題とせざるをえない。むしろ現段階でより重要なのは,いまだ十分な様式的検討が行われていないこれらの地域の仏陀像について地道な作品研究を積み重ねていくことであると思われる。そこで本稿では,今回筆者が調査したスリランカの後期アヌラーダプラ時代(紀元後4世紀〜10世紀)の仏陀像のうち,アーンドラ式仏陀像の初期の展開を考える上で重要と思われる作例を取り上げ,筆者が考える編年に従いながらその像容の特徴を紹介したい。まずスリランカの仏陀像の初期造像にアーンドラ地方の作例が直接的な影響を与えたことを示す例として注目されるのが,アヌラーダプラ近郊のマハーイルッパラーマの農場から出土した仏立像である〔図1〕(注1)。像高約1.8メートルの石灰岩製で,明400
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