鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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期の貴重な作例を多く所蔵している。また『佳人之奇遇』や『輿地誌略Jなどの明治期の石版挿絵本や,高橋由一『三県道路完成記念画帖J,渡辺幽香『大日本帝国古今風俗す陰漫稿』などといった一枚刷り以外の代表作品も所蔵されている。川崎市市民ミュージアム:岡道孝コレクションを所蔵している。このコレクションには,岡道孝氏が蒐集した考古遺物や民具などと共に,錦絵を中心とする膨大な明治期の版画類が含まれている。うち石版画は約300点ほどで,その中心は日清・日露戦争関係など,明治20年代後半から30年代にかけての,いわゆる石版画から印刷技術への過渡期のものであるが,玄々堂など明治20年(1887)以前の極めて貴重な作品も散見される。菰池コレクション:菰池佐千夫氏の蒐集・所蔵になるものである。総数は350点弱を数え,主に明治10年代の作品群が充実している。玄々堂や彫刻会社といったパイオニアのみならず,信陽堂などその他の有力版元の作品にも眼が注がれており,本コレクションによって石版画が日本に定着していく過程をたどることができる。稿者は,このコレクションについてもかつて調査を行い黒船館コレクションと合わせて一部作品のリスト化を試みている(注2)。今回これらの諸機関と所蔵家の方のご好意により,上記のコレクションを拝見する貴重な機会を得ることができた。しかしながらいずれのコレクションも作品数が予想外の多さであったため,残念ながらすべての作品をデータベース化することは一年間では不可能であった。この度は,一般の眼に触れにくい菰池コレクションの所蔵作品についてほぼデータベース化を終えたので,これをもって総目録作成の中間報告としたい。今後も残りの作品については調査およびデータベース作成を継続する予定である。さて,この度の助成では明治前期石版画の全容を明らかにするためにまず菰池コレクションをデータベース化したが,その際,補足資料として新たに『出版書目月報J(注3)を参照し,明治20年以前の作品で年記などのデータを欠くものについてその特定を試みた。この月報は内務省図書局が,当局に納付されていた図書類のタイトル,作者,出版者などの記録を有版権・無版権を問わず一覧とし,一般の参考に供したもので,明治11年(1878)1月から明治20年6月まで月刊形式で発行されている。納付された図書類のみの記録であるため,石版画作品のすべてが掲載されているわけではない。しかし,当時出版された石版画の公的な記録が,たとえ部分的ではあれ文字に460

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