鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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というジャンルの下位にはそれぞれ「芸妓」「洋装美人」「和装美人」などのタームを入れ,画題や主要モチーフを把握できるようにした。なお,複数のジャンルにまたがるものに関しては分類名を併記している。これまで一枚刷り石版画の主題については,幾度か分類が試みられてきた(注4)。それらはいずれも,作品を美人,風景,貴顕,歴史,子供などに大別できるという点で大筋は一致している。しかし,石版画の表現形式や機能をもあわせて研究対象とするのであれば,多方面からの分析が必要であろう。そこで,データベースにジャンルと画題の二項目を設定し,キータームからの検索とソート機能を用いることによって,作品を個別に取り上げるだけでなく,類似モチーフの抽出・比較や図像の系譜をたどることも可能となる。では次に,このデータベースを利用することで新たに得られた知見と,それによって判明した明治前期石版画のアウトラインについて述べてみたい。まず,時間軸に沿ってデータをソートすることにより,各年代に制作された作品の傾向をたどることができる。菰池コレクションの作品中,年記が判明しているものはこのデータベース中では297点にのぼる。それらは明治8年(1875)から25年(1892)にわたっているが,年によって現存作品の点数に大きな変動がある。その分布は,〔表l〕のとおりである。これによれば,明治14年(1881)と15年(1882),そして明治21年(1888)と22年(1889)の現存作品数が突出していることがわかる。『出版書目月報』に掲載された点数と対照してみても,これとほぼ同様の傾向が現れる。月報に記録された作品数は明治13年が21点であるのに対し14年には61点15年になると122点と一気に跳ね上がっている。また明治21,22年に関しては,それ以前のまとまった出版記録を欠くため上記のような比較はできないものの,明治21年の官報に掲載された作品数を試みに数えるなら,届出点数は全部で約365点にのぼる。現存点数の年代による多寡は他のコレクションともおおむね共通していることから明治2122年に一枚刷り石版画の最大の流行が来たであろうことが推測できる。ではこれらのピークはなぜ、生じ,その内実はどのようなものだ、ったのであろうか。これらの疑問を明らかにする手がかりは,作品の主題にある。〔表2〕は,作品の制作年代とその主な画題を一覧にしたものである。ここで目に付くのは,明治14年の貴顕と15年の美人,そして明治21年の美人画の全体に占める割合の高さである。これらの-462-

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