⑮ ベラスケスの初期作品2 ベラスケスのボデゴン一ーボデゴンの成立要因とその特徴について一一研究者:武蔵野美術大学非常勤講師貫井一美1 はじめにこの報告は,ベラスケスのボデゴンの成立の背景とその特異性を明らかにするための一考察である。画家試験に合格し,画家として歩み始めたセピーリャ時代に描かれた一連のボデゴンは,ベラスケスがカラヴアジオ作品に見られる様な劇的な明暗法を用いた自然主義から出発し,やがて自らの自然主義絵画への方向性を確立していく過程をうかがうことのできる重要な作品である。この点で,これらボデゴンのベラスケス作品全体における位置づけを再検討する必要があると考えられる。ベラスケスのボデゴンは,当時のセピーリャの日常生活を主題とした風俗画的静物画であり,ベラスケスの初期における実験的,あるいは習作的なものとの位置づけが成されてきた(注1 )。しかし,一見何でもない日常を切り取ったかのような画面には明らかに入念なベラスケスの計算が見て取れる点,またこれらの作品の持つ教訓的意味を考える時,ベラスケスのボ、デゴンが単に構図や技術的な習作以上の意味を持つことは明らかである。この点に留意してボデゴン一点ごとに実際に当たることが今回の調査の第一の目的である。これらは,数も少なく,また現存作品のすべてがスペイン国外に四散しており,実際にこれらを一点ず、つ比較検討することは難しいと思われた。しかし,1994年の[Velazqu巴zin Sevilla]展(スコットランド・ナショナルギャラリー,エジンパラ),ベラスケス生誕4百周年の昨年,セピーリャで開催された[Velazquezy Sevilla]展の2つの展覧会においてベラスケスのボデゴン作品の大半,およびその周辺の画家たちのボデゴンをまとまった形で直接目にする機会を得た。またピルパオ県立美術館の[スペインのボデゴン一一スルパランからピカソまで一一]と題された展覧会において,ベラスケスとほぼ同時代の画家の作品を初めとしてスペイン・ボデゴンの流れを概観することができた。この報告書ではこれらの展覧会での調査をもとにベラスケスのボデゴンの成立の背景とその特異性について再考を試みる。現在,ベラスケス作のボデゴンは〔表1〕に示した9点である(注2)。-469-
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