鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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白1)12世紀初頭にローマを中心に制作された壁画群は,図像面ではグレゴリウス改革との結びつきを有し,マルテイリウムとしての意味内容をもっという。アプシスはもともと埋葬建築に関係し,マルテイ1)ウムでは祭壇はアプシスの前に置かれた。それは食卓と同時にキリストや殉教聖人の墓を象徴したという。G.Band-mann,“Zur Bedeutung der romanischen Apsis,”in : Wallraj-Richartz-Jb. XV, 1953, pp.28-46. 仰)ポレチ大聖堂のアプシス周辺の装飾については,加藤磨珠枝氏が,「殉教聖人のメダイヨン・サイクル」という文脈で考察している。そこにみられる特徴として加藤氏は,サイクルが祭壇に近いアーチ内縁に配されている点,サイクル全体が十二使徒と呼応しながらプログラムに組み込まれている点,サイクルの頂部にキリストを象徴するメダイヨンが配されている点を挙げている。加藤磨珠枝,「ローマのサン・クリソーゴノ聖堂,初期中世壁画研究j,東京芸術大学大学院美術研究科博士論文,2000年。を背景とするローマ教会の再建と結びつけてプログラムが解釈され,様式面では「テイアー・ドロップ」ゃ「V字形jの襲といった,ドレイパリー表現にみられる共通の様式言語などにより説明される傾向がある。とくに様式面では,ベルゼ・ラ・ヴイルとの関係が指摘され,クリュニー絵画におけるローマ的要素の影響の証左として言及されてきた。作例としては,ローマのサン・クレメンテ聖堂,サンタ・プデンツイアーナの小礼拝堂,チエリのサンタ・マリア・イン・マコラータ聖堂,ネーピ近郊のカステル・サン・テリーア,トゥスカーニアのサン・ピエトロ聖堂などがある。これらの壁画とベルゼ・ラ・ヴィルとの様式面での関係については,以下の文献に詳しい。;E.B. Garrison, 1955-1956, pp. 21 44.

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