鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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と呼べるのではないだろうか。一方,ブリユツセルの画家たちによる作品の幼児キリストの両足はほぼ揃えて描かれている。〔図7'8〕は聖女ルチア伝の画家の作品で,この画家もブルージュの画家であり,キリストの足の位置は上記の法則に従っている。この2点を比較すると,聖母の左手が〔図7〕では乳房を支えているのに対し〔図8〕ではザクロを持っている。手の位置,聖母の姿勢は変えず,授乳ではない聖母子像に変えた翻案が興味深い。[聖母子半身像,タイプII]ジャン・ド・グ口タイプジャン・ド・グロの聖母子像〔図9〕を祖型としたタイプである。幼児キリストのデッサン〔図10〕を示した。この聖母のタイプを見分ける観点としては,聖母の右手の位置と親指に注目した。また,幼児はタイプIより体を起こしている。〔図11〕は聖母の左手の位置が変化し,幼児の両手も位置を変えている。幼児の左手は聖ルカの幼児の左手に近い。また,聖母が目を伏せている点も聖ルカとの類似が指摘される。しかし,〔図11〕の幼児は笑顔ではない。〔図12,13, 14〕の金の錦織りの画家の作品は3点ともに〔図11〕の幼児の両手に類似しており,幼児の両足の位置は,祖型として挙げた〔図9〕に近い。この金の錦織の画家の3点は背景にヴァリエイションが付けられている例であり,前景に銘があるものとないものとがある。乳房が隠されているものと授乳の聖母になっているものという翻案がここでも見られる。〔図15,16, 17, 18〕は聖女ウルスラ伝の画家作で,背景と乳房,幼児の手のヴァリエイションはこれまで指摘してきた例に等しい。〔図19〕はマグダラのマリア伝の画家の作品で,この画家はブリユツセルの画家であるが,幼児の是の不揃いな位置を含めて上記のウルスラ伝の作品にポーズと細部が酷似したものを描いている。各街の画家組合は,他の街の画家の作品が市中に持ち込まれることを嫌って,市外で購入した絵画を市中に持ち込んで、売ってはならない,市中で絵画を販売できるのは市中のギルドに参加した画家に限るという規則を設けてその街の画家たちの利益を守った(注9)が,このように二つの街のパターンにまたがって構図を採用した作品が見いだ、される画家が存在するので,画家の活動の空間的流動性が窺われる。[聖母子半身像司タイプm-(1)]シカゴタイプこのタイプは〔図20〕を祖型とする例である。〔図21,22〕はマグダラのマリア伝の画家の作品である。この2点の聖母子は合同か相似形と見られるが,興味深いことに,〔図21〕は,14.4×8.2cmのサイズで,幼児の頭幅はl.4cmで、あり,一方,〔図22〕は,-539-

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