切り取られていたものを台紙の上に貼つである。この切り取られていた部分はパターンのように使われたのではないかと言われている(注10)。〔図29,30〕はこの聖母像を採用し,幼児は〔図31〕から採っている。〔図31〕はロヒールの追随者とされる画家の作品であるが,おそらく,ロヒールの作品にこのタイプの幼児キリスト像が存在したものと考えられる。〔図29,30〕はブリユツセルで活動した刺繍の葉の画家の作品とされており,幼児の頭部の幅は〔図29,30〕が6.lcm, 6. 8 cmとなっている。又,それぞれの聖母の衣の襲は合同形と言える程等しく,やはり,型紙,おそらくは透き移し紙を使った下書きデッサンによる制作であろうと思われる。刺繍の葉の画家は,アイリス,ゆり,雛菊,その他の草花も同サイズ,同形のものを背景や聖母の足元にちりばめていることから,一層そのような制作方法の採用が裏づけられる。[聖母子全身像司タイプII]赤い聖母タイプ〔図32〕は赤い聖母と呼ばれるロヒールの作品である。刺繍の葉の画家による庭に座す聖母〔図33〕はこのタイプをそのまま写したように思われる。刺繍の葉の画家は,画面全体を彼の作品に共通する草花や樹木,城,田舎家などのモティーフで埋め尽くしている。〔図29〕のアイリスの丈は26cmで、あり,〔図30〕のアイリスは28.Scmで、ある。両者は葉の数や花の数に増減はあるものの全体の形態は同形で,一つのパターンを使って少々のヴァリエイションを付けたものと見ることができる。そして両者の雛菊や馬の足形なども一つ一つ仔細に見ていくと同形であることに気付かれる。この画家の作品は,ヨーロッパの広範囲にわたって所蔵されており,また,手の異なる画家によるコピーも残されていることから非常に人気が高かったと思われる。よって,増大する需要に応えるため,この画家の工房にはこれらの型紙が多く常備されていたのであろう。16世紀の版画に,アントウェルベンの常設アート・マーケットを描いたものがある(The New Bourse, Antwerp, 1531-32, engraving, from L. Guicciardini) oアントウェルペンのアート・マーケットは,美術工芸品専用に設置された建築物の中で営まれたが,これはヨーロッパで最も早期に出現した方式であった。絵画は何時頃からマーケットで売られるようになったのか。どのようにして売られたのだろうか。この章では,3 絵画市-541-
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