⑩ 遠近法空間とその指示内容との関係をめぐる一連研究一一二つのアナモルフォーズ絵画を中心に:その技法と理論と思想について一一研究者:ボローニャ大学DAMS自由研究員池上英洋はじめに本研究の当初の目的は,現存するアナモルフォーズの2作品を比較することによって,そこにひそむ特質を探ることにあった。これは4段階からなるより大きな研究構想のうちの第三段階にあたり,すなわち,筆者によってすでに明らかにされた遠近作図法のある特質を手掛かりに,そこからアナモルフォーズ絵画の比較考察へと応用し(本助成研究にあたる),さらにこれを舞台美術の様式比較へと展開させ,やがて反宗教改革の文脈における宗教的動機の側面からの遠近法の考察へと至る一連研究の第二段階にあたる。この一連研究に一貫している考えは,美術の技法と理論,そして(制作動機などの)思想という三つの異なるレヴェルにおける諸要素が,実はお互いに連関し,相互に影響を与えあっているという視点にほかならない。このため本研究においても,現存2作品を中心に置き,それらの作品の制作に用いられた技法をまず特定し,そしてそこに適用された美術理論を考察し,さらには両者にある思想上の違いを,こうした技法と理論の両面にある違いをふまえつつ探っていく,という方法が採用された。この方法のためになぜアナモルフォーズを対象に選んだのかは,以下で見ていくように,この芸術が,こうした技法と理論,さらには思想という各レヴェルにおいての比較に適しているという理由によっている。加えてこの芸術はながらく二流なものとみなされてきたため,1' 2の例外を除いては先行研究の甚だしく欠けた分野となっている。よって本研究は,充分考察されたとはとても言い難い状況にあるこの分野に光をあて,さらにこのカテゴリーの分析がとりもなおさず芸術の技法と理論と思想を見る上で格好のモデルとなり得ることをも証明するものとなっている。さて本研究の成果は,すでにl冊の研究書と3本の論文,および一度の学会発表という形で断片的に発表され(付記参照),さらに内容的に関連する他の3本の論文とも呼応して,一応の結論に至った。よって今回の報告論文では,そうした既発表の成果を整理して概観し,そうした一連の研究成果を貫いている上部構造における考察を浮かび上がらせることを目的としている。そしてさらには,その後も進んでいる研究を558
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