鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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6)。転写段階にさほど関心のなかったポッツォが,この応用法を知っていても特記しのである。コストルツィオーネ・レジッティマの応用法はごく単純なもので,通常の絵画においては直線で表される絵画面(vetro“regolare”)を,実際に描く面の形状に合わせて曲線で求める(vetro“1町巴golare”),という応用法にすぎない〔図6〕。この応用法は突飛なものではなく,すでにレオナルドの手稿にそのアイデアを見ることができ(注5),さらにこの方法の完全なるものを,ポッツォの著書に遅れること数年で世に出たフェルデイナンド・ガッリ=ピピエナ『市民建築指導』において認めることが出来る(注なかったと考えることは無理なことではなく,実際,彼の著書のほとんどは彼の主たる関心,つまり(転写段階の前段階である)遠近法の作図段階の説明で占められている。筆者はここから,ポッツォのアナモルフォーズ作品の制作法を,次の2方法のいずれかだと考えている。それは,A)彼の天井画の半円寄窪上部と同様,まずは転写にかける前の下図を彼の遠近作図法(注7)によって描き,それを実際の壁面に転写する,という方法と,B)コストルツィオーネ・レジッティマの応用法により,直接に実際の壁面上の画像を求める,という方法のいずれかである。この時,前者の方法であれば,天井画の場合と同様,得られる下図においてすでに高度なだまし絵的効果があり,そしてそれを転写する段階において,さらに実際の壁面形状のおかげで(ニスロンらの方法と同様),副次的にアナモルフォーズの歪みは加速される。一方,後者においては応用法の一段階によってのみ,視覚効果は得られることになる。さて,一方のメニヤン作品の基礎となった理論については,彼の遠近法の直接の指導者とも考えられるジャン・フランソワ・ニスロン神父の著書に詳しい。彼もモンテイ教会に同時期に滞在しており,メニャンに先駆けて同種の作品をものにしたが,これは現存していない。彼らの作品で用いられた技法はニスロンの著書にあるアナモルフォーズ作図の理論とまったく同じものである〔図7〕(注8)。そこで利用されているのは,視点距離(中央消失点Pと距離点Dとの距離)を意図的に近づければ,結果的に引き延ばされたアナモルフォーズ図が出来上がるという,ごく単純な理論である〔図8〕。560

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