鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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可v〈未来〉とも異なる時間軸,すなわちく過去〉という可能性を挙げることが出来る。これをもとにトンドの中に展開された諸エピソードを見れば,はたしてそこに絵巻物のように展開されているのは,まさに時間や運命などの強い力にもてあそばれ,あるいは果敢に挑戦していった過去の人物達(カエサルやアレクサンドロス大王などのエピソードが挿入されている)の歴史にほかならないことに気が付くのである。おわりにこれまで概観して整理したように,今回の一連研究は,アナモルフォーズ作品の比較分析から始まって,異なる遠近法空間が持つ異なる指示内容の考察へと展開された。これはたんにアナモルフォーズ作品にとどまらず,遠近法が持つ象徴機能そのものに対する分析にほかならない。よって今後も,これまで未解読のまま残されていた諸作品に対し,あらたな作品分析の可能性を提出できうるものと考えている。実際,いまだ準備段階のものではあるが,次なるテストケースとして,フランドル・バロックのある作品について,本研究の一連の論文の最後で(注18)あらたな解読へと至る今後の発展性を検討したが,今はこうした将来的な応用の可能性を示唆するにとどめて,次なる段階における研究成果を待ちたいと思う。付記本助成研究は,助成対象期間内に,助成研究論文の形式で以下の3論文において断片的に発表された。V「アナモルフォーズ・ヴアニタス・“cogito”」『美学J第198号,1999年,25〜36頁。v「イタリアに残る二つのアナモルフォーズ画をめぐって制作におけるく二つの段階〉の問題一一一」『日伊文化研究』第38号,2000年,66〜79頁。tur巴一一ヘKulturo,Vol.11, 2000, University of Copenhagen (コペンハーゲン大学文学部)' pp. 45 55. また本助成研究の成果の大部分が,上記の3論文をふまえた,次の研究書において発表された。TDue volti dell’Anamoゆsi-Prospettivae‘Vanitas’:Niceron, Pozzo, Holbein e Descartes−一,CLUEB(ボローニャ大学出版局)社刊,ボローニャ,2000年。-565-

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