考察した胎蔵界千手観音と極めて近い例である清澄寺本でもこの二尊を春属としている。後者の二十八部衆を描く諸本についてみることにしよう。二十八部衆についての記述のある経軌としては,別表のとおり,『千手経』中の,受法者護持の諸尊の記述があり,また,善無畏訳の『千手観音造次第法儀軌Jにはその尊名と像容が記されている。これらの尊名をみれば,何尊かがまとまって記される場合や後世には不明の尊もあり,現実の作例との比較は難しい。また,東寺観智院蔵の『二十八部衆並十二神将Jには,先の三経に示された二十八部衆の図像が掲載されている。さらに,妙法院三十三間堂の二十八部衆は『造次第儀軌』とは異なるが,わかりやすい尊名を挙げ,基準となる。画像において二十八部衆を描くものは表に挙げたとおり,細見美術館本,奈良国立博物館本,四天王寺本,千光寺本,東京国立博物館本,別尊雑記所収唐本図像などである。これら遺品におけるこ十八部衆の尊名の比定は決して容易ではないが,細見美本では像の傍らに尊名が記されているのでわかりやすく,これも基準となる。この細見美本では三十三身をも描きこみ,特異な例ではある。さて,千手観音画像諸本の二十八部衆の像容を観察すると,単独でも信仰された尊については,その像容が明確で、あり,また,ほとんどすべての画像においても描出される。それらは,婆薮仙・功徳天・党天・帝釈天・四天王・金剛力士二体・阿修羅・迦楼羅など八部衆(但し,像容は一定でなく遺品によっては判別し得ない場合もある)・難陀竜王と沙迦羅竜王(この二体の区別は困難)・風神と雷神(二十八部衆に含まない場合もある)などである。また,功徳天以外の女神として神母天なども判別が容易で、ある。これら諸尊の像容の特徴はそれぞれの画像で若干に相違がある。たとえば,功徳天の場合,大清寺本や細見美本のように華龍を差し出す例と,四天王寺本のように宝珠を差し出す例がある。その他,持物や印相に異同はあるが,裸体形の金剛力士,毘沙門天の宝塔,四皆の阿修羅など尊名の比定は容易である。また,奈良博本①,四天王寺本,別尊雑記唐本では,党天・帝釈天・四天王には円光が付けられ,他の尊と区別している。その他の尊では,大清寺本と細見美本に共通する頭にライオンの髭のような面を被り,それを両手で広げようとしている尊(細見美本では「金色孔雀王」と記している)や怒髪が柊の葉のようにとげとげしくなっている尊(四天王寺本,細見美本に見られ,細見美本では「伊鉢羅」としている)などその特徴が明確なものもあるが,これもそれを描くものとそうでないものがあり,一定しているもの576
元のページ ../index.html#587