鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
60/763

画廊にヴェール・シリーズを含む9枚の絵画を送った。この手紙はその梱包を終えた直後に書かれた。「明日,鉄道の速達運送便が取りに来ることになっているロールには,9点の絵画があります。全て,ほぼ同じサイズですが,私の考えではそのうち2点は,残りの多数が持っている,一連の単純なパターンやゆったりした動きと異なります。この2点は,もっと荒いもので,黒と白の部分が沢山あります。多分お粗末だから,今は私くらいしか興味を持たないでしょうが,これをもっと探求したくなっています。他の作品は,ほぼ全てを終えてしまったと感じていますが。私はその[次の]お話に取りかかりたいと思っているのです。しばらくの間,あなたが以前ご覧になった〈トレリス〉や他の作品を二,三見ていました。ただ私はそれらを含める気にはなれませんでしたし,私が今回一人で選んだものにも様々な疑念を抱いていますが,私はこの一群を送ります。」(訳者が補った箇所は[]で、括った。以下同じ)ここで言及されている9点の絵画のうち7点は判明している。ルイスが送った作品にマテイスは関心を抱かずグリーンパーグに返してしまうのだが,そこに保管されていた作品のうち7点をパトリック・ランナンが58年に購入したからだ(注30)。このうち,〈無題〉〔図2〕以外の6点はヴェール・シリーズである。〈無題〉は,白と黒の絵の具をふんだんに用いた抽象表現主義的作品で,ルイスが新しい傾向の絵画として挙げている2点のうちの1つであることは間違いないだろう(注31)。ここで,フランケンサーラーの〈山と海〉〔図8〕に影響されたステイニングの〈トレリス〉〔図9〕をすでに過去のものと見なしている点も興味深い。この手紙が書かれた頃,ルイスはステイニングによるヴェール・シリーズから離れ,抽象表現主義的作品へと移行する時期にあったことが分かる。この5ヶ月後のグリーンパーグの手紙が残っている。コレクターのグロリア・ストコウスキーに,購入すべきルイスの作品の選定を依頼されたグリーンパーグは,10月14日付の手紙で,自分が保管している作品から選んで、よいか,それとも,新作も候補に加えるのがよいかルイスに尋ねている。「私が選択する前に貴方の新作を拝見したいのですが,他方で,もし私が現在家にあるカンヴァスの中から一つを選んだら,貴方は運送費が節約できるでしょう。どのようにお考えですか。どちらの場合でも,カンヴァスは一度枠に張ってそしてまたはずす必要があります。そして,申し上げておきますが,私は是非ともまず貴方の新作を拝見したいと思っています。」「現在家にあるカンヴァスjとは,先述の9点の作品である。この手紙は,グリーンパーグが新作に-49-

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る