関心を抱いている点で注目に値する。この時点ですでに抽象表現主義的作品を見ているグリーンパーグは,さらにそれを見たいと言っているのだ。この手紙に対するルイスの返事は残っていないが,それを受けて書かれたと思われるグリーンパーグ、の手紙が残っている。12月5日付の手紙で,グリーンパーグは作品の選定を報告している。「私は,ストコウスキーの購入のために送っていただいた新作の束の中から一つを選び、ました一一厚いクリームホワイトの絵の具がリネンの線に沿って流れているカンヴアスです(名前はどうしましょう?)。そして,ピンダーに張ってもらってアルミニウム[の箱]に入れて送ろうと思います。それで、よろしいですか。」この手紙から,ルイスが新作を送り,グリーンパーグはそこからl点を選んだ、ことが分かる。残念ながら,ここで言及されている作品は現在行方不明である。破棄された作品の一つだろうか。もっとも,新作と明記されており,絵の具が厚く塗られた作品とある以上,少なくともこの作品が抽象表現主義的作品であることは明らかだ。ここから言えるのは,54年の時点では,グリーンパーグが視覚的なヴェール・シリーズよりも,抽象表現主義的作品に関心を持っていたことである。従来,グリーンパーグは55年4月にルイスのアトリエを訪ねた時に,抽象表現主義的な作品を見て失望したとされてきた。しかしこれらの手紙から分かるのはグリーンパーグは54年の時点ですでに抽象表現主義的作品を見ており,それらを評価していることである。つまり,グリーンパーグは視覚的なヴェール絵画に固執していたわけではなかった。揺れ動くグリーンパーグの立場を表していると言えよう。では60年代の手紙からは何が言えるだろうか。まず61年5月3日付のグリーンパーグの手紙を見てみよう。「貴方の新しい絵画は私のところにあります。小さい作品は大きいものと同じくらいか,多分もっとあります。小さい方が良いと言うわけではありませんが,床で見た時に大きいものよりも記憶に残りやすいです。また,私はそれを垂直的なものとして見ることにしていますし,それが正しいのだと思います(無意識のうちに,ジェニーやピルに話す時は「火の柱Jと呼んでいます)。」「新しい絵画」とはストライフ0.シリーズのことである。秋に聞かれるエメリッチ画廊での個展のために,グリーンパーグのところに送られたものと思われる。同シリーズはこの個展で初めて発表された。制作され初めて他人の目に触れられた時の生々しい状態を作品が保っている様子が窺える。この段階では作品をどう掛けるのかまだ決まっていない。イメージは垂直なのか水平なのかといった根本的と思われることすら決まっていない。50
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