n巴SBechtholtすなわちニュルンベルクで活躍したヨハネス・ベヒトホルトの署名があ例がある(注13)。デューラーをはじめとして,ゲオルク・ベンツ,ゼバルト・ベーハム,ルーカス・クラナハなどによる版画が彩色され,そこに多くの銅版画が含まれていることは特徴的といえるだろう。彩色を施している者には専門の細密画家や彩飾画家がおり,中にはモノグラムや年記を記しているものもいる。こうした版画はコレクターのアルバムや記録帖に貼られたり,綴じられたりしていたが,それらは多くが解体され,かつての状態を残すものは少ない。実見した例では,1800年頃の製本で綴じられたデューラーの木版画〈聖母伝〉の連作がある。これは注文主,受容者,彩飾画家および制作年代が知られる非常に珍しい例である。装飾的な扉には,小聖ペテロ教会の聖堂参事会会長フランツ・プフェレンガーが1586年にこの作品をシュトラスブルク大司教マンデルシャイト=ブランケンハイム・フォン・ヨハンに贈ったことが記されている。いくつかの作品にはIBのモノグラムがあり,〈マリアの宮詣で〉にはJohan-る(注14)。画面は黄,緑,紫,青,赤,ピンク,オレンジなどの不透明色で細やかに彩色され,ハイライトには金や銀が用いられている。金や銀のハイライトは,高価な写本画に特徴的な手法であるが,この種の入念な版画の彩色によくみられる。コープルクの美術館は,ドイツにおいてもっとも古い版画コレクションを持つ美術館のひとつとして知られている。ここには多くの彩色版画が所蔵される。デューラーの銅版画〈聖ヒエロニムス〉〔図6〕には,画面下方にDRのモノグラムがあり,おそらくアウグスブルクのドミニクス・ロッテンハマーDominikusRottenhammerであるとされる。ここでは衣や調度の一部は不透明色で塗られ,金で微細なハイライトがなされているものの,動物の毛並みや天井の木目,そして窓から差し込む光の繊細な表現においては,透明色によって版画の描線を生かすように彩色されている。こうした彩色は,版画効果をも生かした,魅力あるものだといえよう。また,現在は個人の所蔵となっているデユーラーの銅版画〈小受難伝〉〔図7,8〕は,羊皮紙に貼られ,画面上には「キリストの受難を思いてErinnerungd巴SL巴idensChristi」などの表題がつけられている(注15)。画面にはGMのモノグラムがみられ,ニユルンベルクで1570年から1620年頃に活躍したゲオルク・マックG巴orgMackであると考えられる。ここで日をひくのは,版画の多彩な彩色と金銀のハイライトばかりでなく,美しい植物描写が版画と裏面のテクストを枠どるように飾っていることである。残念ながら現在は解体され一部が残るのみであるが,かつての豪華な姿を想像さ610-
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