鹿島美術研究 年報第17号別冊(2000)
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2. 1998年度助成① ラファ工ル・コランの画業をめぐってI. 1870年代研究者:福岡市美術館学芸員三谷理華はじめにフランスの画家ルイ=ジョゼフニラファエル・コラン(1850〜1916)は,黒田清輝らの滞仏中の師として主に日本でその名を知られてはいたが,その画業については,日本はもとよりフランスにおいても未調査の点が多かった。そしてこのような状況下で企画された「ラフアエル・コラン展」の開催にあたっては,コランの作品の所在の確認をはじめ,同時代文献などの資料類の発掘といった基礎的調査が不可欠で、あった。1997年より約3年間にわたって行われたこの展覧会準備のための調査は,主にフランス及び日本国内にあるコラン作品の掘り起こしと,コランが主要作品を発表した年のサロン批評,及びコランの生涯を跡付ける公文書類の調査を中心に行われた。無論この調査は完全に網羅的なものとは言い難く,コランの遺産相続人セパステイアン・ローランにまつわる調査をはじめとして,未だ残された課題も多いのだが,コランの装飾画家や日本美術愛好家としての側面など,これまであまり知られていなかった事実の確認ができたという点では成果も多かったものと思われる。そしてこうした成果は,出来る限り展覧会の展示や図録に反映させるよう努めたことは言うまでもない(注1 )。以下本稿では,こうした経緯を経ての調査結果を踏まえた上で,コランの画業をi府服し,その概略をたどることを試みたい。コランの作風の変遷についてコランの画家としての活動期間は,1870年代初頭から,没する1916年までの約50年間である。以下では展覧会開催時の構成に即し,コランの活動期間を4つの時期に区分し,それぞれの特徴を考察することにより,その画業の変遷を追ってみたい。1870年代は,コランが自らの画風を模索した時期にあたる。-654-

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