jects)」から「活き活きとした興味深い主題(vitaland interesting subjects) Jが生み出さ中央に大きく描かれており,あたかも自らの優位とテクノロジーの勝利を宣言しているかのようである。この蒸気船は,左側の大きな帆船を曳航している。そうしたシチュエーションと構図は,1839年発表の油彩画〈戦艦テメレール号〉のイメージを予告するものとして注目に値する。下巻の第18葉〈セーヌ河とマルヌ河の合流点>(212頁,〔図11〕)では,対比すべき帆船の姿はなく,蒸気船が単独で、登場しているが,画面の中央に置かれたそれは如何にも泰然と川面に浮かんでいる。甲板の上には10人余りの人物が立っており,橋や引き網漁などを眺めている。また,第19葉〈マラン>(215頁,〔図12〕)では,岸につけた蒸気船から乗客が上陸する様子が描かれている。さらに,上巻の第15葉〈ジ、ユミージ>(99頁,〔図13〕)でも,画面右側に一部のみ姿を見せる蒸気船に大勢の乗客が乗り込んでいる。これらの画面では,蒸気船がピクチャレスクな景観を求めての観光旅行で果たす役割が端的に示されている。さて,ターナーが描いた,以上のような蒸気船のイメージに言及したものとして,『クオータリー・レビュー(QuarterlyReview)』誌の書評がまず挙げられる。「…我国で最も理想的な風景画家であるターナーの素晴らしい手法に感動した。彼はセーヌ河畔に取材した眺望に蒸気船を採り入れたのである。高い煙突,黒い船体,空中に渦巻く煙,これらは,彼の川の上に生命の,堂々たる生命のイメージを示している。そのイメージは単純にして偉大な自然の産物の中で,正当な場所を与えられたに過ぎないように見える。」(注2)また,『アーノルド・マガジン(Arnold’smagazine of th巴Arts).J 誌では,「我々は,通常このような煙や蒸気船をデリケートなピクチャレスクの主題と見倣して称賛したりしない。しかし,ここでの主題はいずれも極めて高度な扱いを受けているので,我々もあまり偏狭な趣味に固執しないよう注意しなければならない。…船の後方にたなびく煙は素晴らしい。」(注3)と評されている。これらの批評はいずれも,ターナーが蒸気船をピクチャレスクな風景の主題として取り扱うのに成功したことを認めており,特に前者で使われる「生命のイメージ」という言葉は,蒸気船が単なるモチーフ以上の価値を獲得したことを示している。それは,ウィリアム・ロドナーの言葉を借りれば,蒸気船という「卑近な対象(coarseob-れたということに他ならない(注4)。では,このようにターナーの作品の中で主題としての新たな意味を持つに至った蒸気船は,油彩画ではどのように扱われているのだ679
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